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- 言語聴覚士(ST)という仕事に興味がある学生の方仕事内容や資格取得の流れ、国家試験の難易度を知り、進路選択の参考にしたい方
- 医療・福祉分野でキャリアチェンジを考えている社会人の方働きながら資格取得が可能か、勉強時間や年収を把握してキャリア設計を考えたい方
- リハビリや発達支援に関心があるご家族や保護者の方子どもや高齢のご家族が支援を受けられる専門職を理解し、相談先を探したい方
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言語聴覚士(ST)とは?
言語聴覚士(ST)は、ことばや聴こえ、発声、発達、そして「食べる」機能に関わる専門職です。病気や事故、加齢、発達のつまずきなどによって、会話や理解、発音、飲み込みに困難を抱える方に対し、検査・評価を行い、適切な訓練や助言を提供します。
対象は子どもから高齢者まで幅広く、失語症や構音障がい、聴覚障がい、摂食嚥下障がいなど多様なケースに対応します。
医師や看護師、リハビリ職、教育や福祉の関係者と連携し、チームの一員として本人と家族を支える役割を担っています。
言語聴覚士(ST)の歴史
言語聴覚士(ST)という職種の必要性は、1960年代から社会的に認識され始めました。1971年には国立聴力言語障がいセンター(現・国立身体障がい者リハビリテーションセンター)に養成課程が設けられ、専門教育が本格化します。
その後、高齢化の進展により制度化の動きが加速し、1997年には『言語聴覚士法』が制定されました。翌1999年には第1回国家試験が実施され、約4,000人が合格して初の国家資格者が誕生します。
さらに2000年には学術・職能団体として日本言語聴覚士協会が設立され、2009年には一般社団法人へ移行。制度・組織の両面から基盤が整えられ、現在に至るまで医療・福祉・教育分野で専門職としての役割を確立してきました。
国家試験の合格者推移
1999年の第1回試験では約4,000人が合格しましたが、その後は毎年1,600〜2,000人前後で推移しています。
令和7年3月末時点で累計合格者は 43,364人。合格率は50〜70%台を中心に変動しており、直近は70%前後と安定しています。
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言語聴覚士(ST)の仕事内容
ここでは、言語聴覚士(ST)の主な役割や活動内容を分野ごとに紹介します。対象となる障がいの種類や支援方法は多岐にわたり、医療・福祉・教育など幅広い現場で活躍しています。
コミュニケーション障がいへの対応
脳血管障がいによる失語症や高次脳機能障がい、発音が不明瞭になる構音障がい、声が出にくい音声障がい、ことばの発達の遅れなどに対して検査・評価を行います。
その結果をもとに、一人ひとりの課題に合わせた訓練プログラムを作成し、絵カードや発音練習、補聴器の使用指導などを通じて改善を支援します。
嚥下障がいのリハビリテーション
食べ物を噛んだり飲み込んだりする嚥下機能に問題がある人に対して、問診や検査を実施し、障がいの程度を見極めます。
必要に応じて嚥下訓練を行い、安全に食事を摂る方法を指導します。食事形態の調整や摂取姿勢の工夫を含め、生活全般での「食べる力」を支えることも重要な役割です。
家族や周囲への支援
本人への直接的な訓練だけでなく、家族への助言や相談対応も大切な仕事です。
家庭や地域でどのように関われば良いか、コミュニケーション方法や食事介助の工夫などを説明し、日常生活への適応をサポートします。また、学校や職場に向けて環境調整の提案を行うこともあります。
多職種との連携
言語聴覚士(ST)は単独で支援するのではなく、医師・歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護職、心理職、教育関係者などと連携してチームで対応します。
連携の中で評価結果や訓練計画を共有し、リハビリテーションや支援を多角的に進めることが求められます。
その他の活動
在宅訪問や地域施設での指導、記録や経過管理、学生や後進への教育指導なども職務に含まれます。
小児から高齢者まで幅広い対象に関わるため、専門知識の更新と臨床スキルの継続的な向上が欠かせません。
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言語聴覚士(ST)になるには?
ここでは、言語聴覚士(ST)になるまでの道筋をわかりやすく整理します。
受験資格の取り方、養成課程で学ぶ内容や臨床実習のポイント、国家試験(時期・合格率)の基本情報、そして現場で求められる資質までを順に解説します。
国家試験合格が必須
言語聴覚士(ST)として働くには、まず指定された養成課程で必要単位を修め、国家試験の受験資格を得ます。国家試験は毎年3月に実施され、合格後に厚生労働大臣の免許登録を行って初めて「言語聴覚士(ST)」として名乗ることができます。
受験資格を得るためのルートは複数あり、学歴や既修科目の有無によって選択肢が異なります。学内での講義・演習、臨床実習、国家試験対策という三段構えで準備を進めるのが一般的です。
受験資格の主なルート
高校卒業者は、文部科学大臣や都道府県知事が指定する大学・短大・専修学校で3~4年学ぶのが標準ルートです。
一般の4年制大学を出た人は、指定の専攻科・大学院や2年制の専修課程で必要科目を履修して受験資格を得ます。
既修者向けに1年制の短期課程を設ける学校もあり、海外での学修は所定の認定を受ければ対象となります。
養成課程で学ぶ科目
基礎・専門基礎では、コミュニケーション行動に関わる医学、心理学、言語学、音声学、音響学、社会科学などを横断的に学習します。
専門分野では、失語症や高次脳機能障がい、言語発達、発声・発語と嚥下、聴覚などを体系的に学び、評価法から支援計画の立て方まで臨床で使える知識と技術を積み上げます。
臨床実習で身につく力
病院やリハビリテーションセンター、児童の療育機関などでの実習では、検査・評価の実施、目標設定、訓練や指導の進め方を実地で学びます。
医師・歯科医師、看護師、PT・OT、教育・福祉職との連携を体験し、守秘や説明責任といった医療倫理、記録・報告の基本も身につけます。
試験時期と合格率・難易度の目安
国家試験は例年3月に行われ、合格率は概ね50〜60%台で推移しています。
出題は基礎から専門まで幅広く、知識の暗記だけでなく、評価結果の読み取りや臨床判断を問う内容も想定されます。カリキュラムの復習、過去問題の分析、実習経験の振り返りを組み合わせて学習計画を立てましょう。
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言語聴覚士(ST)は独学でも目指せる?
国家試験の受験資格を得るために、厚生労働大臣や文部科学大臣が指定する大学・短大・専修学校などで、法律で定められたカリキュラムを修了する必要があるため、独学だけでは資格取得を目指せません。
独学で知識を深めることは可能ですが、解剖学や言語学、発達心理学といった専門科目に加え、臨床実習の単位取得も必須です。つまり、学習の大部分は指定養成課程を通じて行うのが前提となります。
ただし、既に関連分野の大学を卒業している場合は、短期間(1〜2年)の専攻科で学び直すコースも用意されており、バックグラウンドによっては独学を補助的に活用しつつ効率的に学ぶことが可能です。
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働きながら言語聴覚士(ST)になるには?通信教育で目指せる?
社会人や子育て中の方が、仕事を続けながら言語聴覚士(ST)を目指すケースも増えています。
基本的に通信制のみで受験資格を得ることはできませんが、日本福祉大学のように 通信教育課程を活用しつつ、スクーリングや実習を組み合わせて学べる大学が存在します。
また、一部の学校では夜間課程を設置しており、日中は働き、夜間に通学するスタイルも可能です。ただし、言語聴覚士養成の過程では臨床実習が必須となり、数週間〜1か月以上にわたり日中に実習へ参加する必要があります。
そのため、現在の勤務形態によっては長期の休暇取得や勤務調整が必要となる点に注意が必要です。
大学卒業者であれば、2年制の専攻科や1年制の養成課程 を選択でき、比較的短期間で資格取得を目指せます。
さらに、教育訓練給付制度や奨学金を利用することで、学費負担を軽減しながら学ぶことも可能です。計画的に働き方を見直し、通信教育や夜間課程を上手に活用することで、社会人でも資格取得は十分に実現できます。
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言語聴覚士(ST)の合格までに必要な勉強時間の目安
国家試験の学習時間は、一般的な目安として「800〜1,000時間程度」とされています。ただし、必要な学習時間には個人差が大きく、初期知識・学習経験・勉強方法・生活状況などによって大きく異なります。自身の理解度や進捗に応じて、無理のない学習計画を立てることが大切です。
特に直前の半年間は、毎日3〜5時間を確保して集中的に取り組むのが目安とされます。暗記だけに頼らず、臨床実習での経験を整理しながら理解につなげることが、合格への大きなポイントです。
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言語聴覚士(ST)の年収は?
厚生労働省の職業情報提供サイトによると、言語聴覚士の平均年収は 約444万円(令和6年時点) です。
平均年齢は35歳前後、女性比率は約76%と高く、就業者の多くは医療機関で働いています。下表には、最新の統計データを表にまとめました。
項目 | 数値(全国平均) |
---|---|
平均年収 | 444.2万円 |
平均月給(求人ベース) | 26.3万円 |
平均時給(一般労働者) | 2,257円 |
平均時給(短時間労働者) | 2,423円 |
月間労働時間 | 159時間 |
平均年齢 | 35.5歳 |
女性割合 | 約76% |
就業者数 | 26,930人 |
有資格者数 | 約43,364人(2025年) |
他のリハビリ職(理学・作業療法士)との比較
言語聴覚士(ST)の年収は、同じリハビリ専門職である理学療法士や作業療法士と比較してやや高めとされています。
たとえば、理学療法士や作業療法士の平均年収は420万円前後とされており、施設数や配置人数の多さが待遇差につながっています。
一方で、言語聴覚士(ST)は患者1人あたりの対応時間が長く、対象となる症状も複雑であることから、専門性の高さが評価される職種でもあります。
今後は嚥下障がいや発達支援の需要が高まることで、待遇面の改善が進む可能性も期待されています。
職種 | 平均年収(目安) | 配置人数の多さ | 主な対象分野 |
---|---|---|---|
理学療法士 | 約420万円 | 多い | 運動機能リハビリ |
作業療法士 | 約420万円 | 多い | 日常動作・認知機能支援 |
言語聴覚士 | 約444万円 | 少ない | 言語・聴覚・嚥下支援 |
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言語聴覚士(ST)に向いている人
言語聴覚士(ST)は、子どもから高齢者まで幅広い人を対象に、ことばや聴こえ、食べる機能を支援する専門職です。そのため、専門知識や技術だけでなく、人との関わり方や柔軟な思考力も求められます。
ここでは、言語聴覚士(ST)に向いている人の特徴を整理して紹介します。
人と接することが好きな人
言語聴覚士(ST)は、患者さん本人だけでなく、そのご家族とも関わりながら支援を行います。ときには不安やフラストレーションを抱えた相手の気持ちを受け止め、安心感を与える役割も求められます。
そのため、人と話すことが好きで、相手の立場に立って考えられる人に向いています。
また、ことばのやり取りだけでなく、表情やしぐさを感じ取りながら関係を築く姿勢も欠かせません。信頼関係を土台に支援を進められる人は、現場で力を発揮しやすいでしょう。
根気強く取り組める人
リハビリはすぐに効果が出るわけではなく、少しずつ改善していくのが一般的です。
数週間で成果が見える場合もありますが、長期にわたり小さな変化を積み重ねていくケースも多くあります。
そのため、一度の結果に一喜一憂せず、粘り強く支援を続けられる人が適しています。
また、患者さんのペースに合わせて柔軟に対応する姿勢も重要です。焦らず寄り添い、前向きに取り組める人が、言語聴覚士(ST)として成長しやすいタイプといえます。
観察力と想像力がある人
言語聴覚士(ST)は、ことばの発達や発音、聴こえや嚥下の障がいなど、多様なケースに向き合います。
そのため、患者さんの小さな変化や表情、反応を見逃さない観察力が求められます。
さらに、ことばにできない思いを想像し、背景にある不安や困難を理解しようとする力も必要です。観察と想像を組み合わせて問題の原因を探り、適切な訓練方法を導き出せる人は、現場で信頼される存在になれます。
学び続けられる人
医療や福祉の分野は日々進歩しており、新しい治療法や支援技術が次々と登場します。言語聴覚士(ST)として長く活躍するためには、常に学び続ける姿勢が欠かせません。
研修や勉強会に参加し、知識や技術をアップデートしていくことで、より質の高い支援が可能になります。
また、自ら学んだ内容を現場で実践し、経験として積み重ねていくことで、自信を持って患者さんに向き合えるようになります。学びを楽しめる人は、この職業に適しているといえるでしょう。
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言語聴覚士(ST)に向いていない人
ここでは、言語聴覚士の仕事に不向きとされる傾向を解説します。自分の性格や考え方と照らし合わせることで、資格取得後のミスマッチを防ぐ参考になります。
人との関わりを避けたい人
言語聴覚士(ST)は、患者さんやその家族と密に関わりながら支援を行う職業です。相手の思いを受け止めたり、励ましたりする場面も多く、人と向き合う姿勢が欠かせません。
そのため、コミュニケーションを避けたい、できるだけ人と接しない働き方を求める人には向いていないといえます。
また、感情の起伏に左右されやすく、相手に冷たく接してしまうと信頼関係を築きにくくなります。人との関わりを楽しむ気持ちがないと、この仕事のやりがいを感じにくいでしょう。
変化に気づきにくい人
患者さんの状態は日々少しずつ変化していきます。言葉のわずかな反応や食事中の嚥下の仕草など、小さな変化を観察して支援につなげることが重要です。
変化に気づかずに同じ対応を繰り返してしまうと、症状の改善を妨げるだけでなく、安全面のリスクにもつながります。そのため、注意力が散漫で細部を見落としやすい人には不向きかもしれません。小さな違いを積極的に探し、改善のヒントにできる観察力が求められます。
学びを続ける意欲がない人
言語聴覚士(ST)の仕事は、資格を取得したら終わりではありません。医療や福祉の現場は日々変化しており、新しい知見や技術を取り入れる姿勢が不可欠です。
学ぶ意欲が乏しいまま現場に立ち続けると、知識が古くなり、適切な支援を提供できなくなるリスクがあります。
また、キャリアを積むうえでも研修や学会への参加は重要なステップです。学びを「負担」としか感じない人には、この仕事を長く続けるのは難しいでしょう。
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言語聴覚士(ST)が活躍する職場・就職先
ここでは、言語聴覚士(ST)が実際にどのような現場で働いているのか、また就業者の傾向や労働条件について解説します。
医療を中心に、介護・福祉・教育など幅広い領域で活躍の場が広がっています。
医療機関(病院・診療所)
病院では、発症直後の急性期から回復期・外来フォローまで、経過に応じた支援を行います。急性期は嚥下リスクのスクリーニングや評価、早期介入による合併症予防が中心です。
回復期では失語症・構音障がい・高次脳機能障がい・嚥下障がいに対する個別訓練と、退院後を見据えた目標設定・家族指導を重視します。
外来では機能維持や社会復帰支援を継続することが特徴です。医師・歯科医師、看護師、PT・OT、管理栄養士、薬剤師らと多職種カンファレンスで方針を擦り合わせます。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 脳卒中後の失語症、高次脳機能障がい、嚥下障がいのある患者 |
代表的な業務 | 急性期〜維持期の評価・訓練、退院支援、外来フォロー |
連携先 | 医師、看護師、理学療法士、作業療法士、栄養士 |
やりがい/難しさ | 早期介入が回復に直結する一方、重症例は成果が見えにくい課題がある |
介護施設(老健・特養など)
入所・通所の双方で、嚥下機能の維持・改善と誤嚥予防、食形態や姿勢・摂食環境の整備を担います。評価に基づく口腔・嚥下訓練、食事介助手順の見直し、職員向けの勉強会やマニュアル整備も重要な役割です。
認知症を併存する利用者には、コミュニケーション支援や行動・心理症状に配慮した関わり方を提案します。
家族への説明や在宅復帰の調整でケアマネジャーと連携し、生活全体の質(QOL)を高めます。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 高齢者、認知症を併存する利用者 |
代表的な業務 | 嚥下評価、食事形態の調整、誤嚥予防、職員への研修 |
連携先 | ケアマネジャー、介護職、看護師 |
やりがい/難しさ | 生活に直結した支援ができるが、人員や時間の制約が多い |
福祉施設(児童発達支援センター・重症心身障がい者施設など)
児童発達支援センター、放課後等デイ、重症心身障がい者施設などで、発達段階に応じたことば・コミュニケーション支援を実施します。
発語を促す関わりに加え、コミュニケーションボードやタブレットなどのAAC(拡大代替コミュニケーション)を導入し、意思表出の手段を広げることも重要な業務の1つ。
摂食・嚥下の課題がある場合は食形態調整や姿勢設定を含めたチーム対応を行い、保育園・幼稚園・学校との橋渡しや家族の相談支援も担います。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 発達障がい者、重症心身障がい者(者) |
代表的な業務 | 発達支援、AAC導入、家族相談、食事支援 |
連携先 | 保育士、教員、心理士 |
やりがい/難しさ | 子どもの成長を長期的に支援できるが、発達の進度がゆるやかで根気が必要 |
行政機関(保健所・保健センターなど)
乳幼児健診や発達相談で、言語発達や聴こえの気づきと早期支援につなげます。
評価結果をもとに、医療・療育・教育機関への紹介や地域資源の案内、保護者への養育支援・家庭での関わり方の助言を行います。
地域の講座や研修で啓発活動を担い、関係機関連携のハブとして支援ルートを整備します。行政ならではの網羅性と継続的フォローが強みです。
項目 | 内容 |
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主な対象 | 乳幼児健診対象児、発達相談を受ける子ども |
代表的な業務 | 言語・聴覚スクリーニング、相談支援、機関紹介 |
連携先 | 保健師、心理士、地域療育機関 |
やりがい/難しさ | 早期発見につなげられるが、限られた時間で判断を下す責任が大きい |
教育機関(小中学校・特別支援学校・通級など)
学校では、学習と学校生活に必要なコミュニケーション基盤づくりを支援します。音韻意識や語彙・文法、記述・読解など学齢期の課題に応じた個別指導を設計します。
吃音や構音の支援では、本人の自己受容と環境調整(話す順番・発表形式の工夫等)を両輪で進めます。
担任・特別支援コーディネーター・養護教諭と連携し、個別の教育支援計画や合理的配慮の検討に関わり、保護者面談で家庭との連携も強化します。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 学習や学校生活に支障を抱える児童・生徒 |
代表的な業務 | 吃音・構音訓練、合理的配慮の提案、教育支援計画作成 |
連携先 | 教員、養護教諭、特別支援コーディネーター |
やりがい/難しさ | 子どもの自信回復に寄与できるが、学校体制や理解度に左右されやすい |
在宅・訪問(訪問看護・訪問リハ)
自宅環境での評価と訓練により、日常生活に直結した支援が可能です。
嚥下機能に合わせた食事形態・姿勢・食具の選定、服薬や口腔ケアの導線づくり、介護者の手技指導を重視します。実生活の会話場面を用いたコミュニケーション支援も行います。
主治医、訪問看護、歯科、栄養士、居宅ケアマネらとサービス担当者会議で連携し、誤嚥性肺炎の再発予防や生活の自立度向上を目指します。
項目 | 内容 |
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主な対象 | 自宅療養中の高齢者や障がい者 |
代表的な業務 | 在宅での嚥下訓練、食具の選定、介護者指導 |
連携先 | 主治医、訪問看護師、ケアマネジャー |
やりがい/難しさ | 生活に密着した支援が可能だが、家庭環境の制約に影響されやすい |
研究・教育機関(大学・研究所)
大学・研究機関では、臨床研究や評価・訓練手法の開発、標準化や信頼性検証を進めます。学生教育では、講義・演習・OSCE等を通じて基礎から臨床応用まで指導し、学外実習の設計・評価も担当します。
学会発表や論文執筆、ガイドライン作成への参画など、エビデンスの創出・普及が主なミッションです。臨床と教育・研究の往来で専門性を高めます。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 学生、研究対象者 |
代表的な業務 | 講義・実習指導、臨床研究、評価法の開発 |
連携先 | 大学教員、研究者、臨床ST |
やりがい/難しさ | エビデンス創出に関われるが、教育・研究・臨床の両立が課題となる |
民間企業(補聴器・医療機器・教材・ヘルスケアIT)
補聴器・人工内耳関連では、適合支援やユーザー教育、臨床現場への技術情報提供を担当します。医療・福祉機器、嚥下関連デバイス、発達支援アプリ、ST教材の企画・評価・ユーザーテストにも関与します。
製品マニュアルやトレーニングプログラムの整備、学会展示・セミナー対応を通じて、現場のニーズをプロダクトに反映させる役割を担います。
項目 | 内容 |
---|---|
主な対象 | 補聴器利用者、医療・教育現場 |
代表的な業務 | 補聴器適合支援、教材開発、機器の評価・普及 |
連携先 | 製品開発者、販売代理店、医療機関 |
やりがい/難しさ | 現場の声を製品に反映できるが、ビジネス的視点との調整が必要 |
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言語聴覚士(ST)の就業状況と勤務先
ここでは、日本言語聴覚士協会の会員データをもとに、就業率や勤務先の分布について整理します。どの分野で多く働いているのか、就業形態の特徴を理解することで、キャリア設計の参考になります。
就業状況(正会員22,106人)
項目 | 割合 |
---|---|
有職 | 85.1% |
┗ 常勤 | 79.8% |
┗ 非常勤 | 5.3% |
就業状況不明 | 14.9% |
出典:言語聴覚士 - 職業詳細 | 職業情報提供サイト|厚生労働省
約8割が常勤勤務であり、安定した働き方を実現しています。一方、非常勤やパートタイムで柔軟に働く人も一定数います
勤務先施設の割合(有職者18,822人)
勤務先 | 割合 | 主な施設 |
---|---|---|
医療 | 60.27% | 一般病院、特定機能病院、診療所 |
医療/介護 | 17.26% | 医療と介護を兼ねる施設 |
介護 | 6.57% | 介護保険施設、居宅サービス事業所 |
福祉 | 4.99% | 障がい者福祉施設、児童福祉施設、保健所 |
学校養成所 | 2.25% | 言語聴覚士指定養成校 |
医療/福祉 | 2.20% | 病院+福祉施設の複合勤務 |
医療/介護/福祉 | 1.32% | 多領域の兼務 |
研究・教育機関 | 0.98% | 大学・研究所 |
その他の法人 | 0.75% | 補聴器メーカー、教材販売会社など |
学校教育 | 0.37% | 特別支援学校、小中高 |
その他の複合 | 1.89% | 上記以外の複合型 |
出典:言語聴覚士 - 職業詳細 | 職業情報提供サイト|厚生労働省
上記のデータからは、約6割が医療機関勤務であることが見て取れます。次いで、介護との兼務(17%超)が目立ちます。
福祉・教育・研究といった専門分野も一定割合を占め、就業先の多様性が確認できます。
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言語聴覚士(ST)が少ない理由とは?
言語聴覚士(ST)の国家資格は1997年に制定され、医療系国家資格の中では歴史が浅いことから有資格者数がまだ限られています。
また、養成校の数が理学療法士や看護師に比べて少なく、入学定員も抑えられているため、毎年の新規合格者は1,600〜2,000人程度にとどまっています。
さらに、専門性が高く幅広い知識と臨床経験が求められるため、学習や実習の負担が大きいことも志望者数に影響しています。
高齢化や発達支援のニーズは増加している一方で、供給が追いついていないことが「ST不足」といわれる背景です。
言語聴覚士(ST)の将来性と今後の展望
超高齢社会を迎える日本では、言語聴覚士(ST)の役割がますます重要になっています。
特に高齢者に多い「嚥下障がい」や「構音障がい」「失語症」などに対応するリハビリの専門職として、医療・福祉の現場からのニーズは年々高まっています。
また、在宅医療や訪問リハビリの分野でも、言語聴覚士(ST)の配置が求められる場面が増えています。現在は他の職種と比べて絶対数が少ないため、求人倍率も比較的高く、安定した就労が見込まれます。
今後は、医療連携や多職種チームの一員として、さらに活躍の場が広がると期待されます。
【今後のニーズが高まる分野】
- 嚥下障がいへの専門的支援(誤嚥性肺炎予防)
- 認知症によるコミュニケーション障がいの対応
- 在宅医療・訪問リハビリ領域での支援強化
- 高齢者施設や地域包括支援センターとの連携
- 小児発達支援や学校現場での支援拡大
人材不足の背景と求人数の傾向
言語聴覚士(ST)は全国的に需要が高まる一方で、有資格者の数が限られており、慢性的な人材不足に陥っています。
厚生労働省の調査によると、言語聴覚士(ST)の求人倍率は4.16倍(2023年度時点)とされています。
特に高齢者施設や在宅医療でのニーズが増えているにもかかわらず、現場で対応できる人数が追いついていないのが実情です。
また、言語聴覚士(ST)1人が担当する業務の幅が広いため、質の高い支援を継続するには相応の時間とスキルが必要となり、結果的に配置が進みにくい状況にもつながっています。
職種 | 有効求人倍率(全国平均) | 備考 |
---|---|---|
理学療法士(PT) | 4.36倍 | 養成校・資格取得者が多い |
作業療法士(OT) | 4.14倍 | 病院・福祉施設に広く配置される |
言語聴覚士(ST) | 4.16倍 | 配置数が少なく需要急増中 |
出典:理学療法士‐職業詳細
出典:作業療法士‐職業詳細
出典:言語聴覚士‐職業詳細
今後の需要と育成への取り組み
高齢化や医療の地域化が進む中で、言語聴覚士(ST)の需要は今後も拡大していくと見込まれています。
特に、誤嚥性肺炎や認知症、発達障がいなど、コミュニケーションや嚥下機能に関わる課題が増える社会において、言語聴覚士(ST)の役割は重要性を増しています。
こうした中、厚生労働省や地方自治体、教育機関では、養成校の新設や定員拡充、進路ガイダンスの充実など、育成支援の取り組みが進められています。
また、実務経験を重ねた後のキャリア支援やスキル向上の機会を確保することも、定着率向上に向けた重要な課題となっています。
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まとめ
言語聴覚士(ST)は、ことば・聴こえ・発声・嚥下など、人の基本的な生活機能を支える専門職です。国家資格として医療・福祉・教育の幅広い現場で活躍し、子どもから高齢者まで多様な支援を担います。
資格取得には養成課程での学びと国家試験合格が必要で、学習時間や臨床実習を含め努力が欠かせません。
一方で、社会的ニーズは拡大しており、今後ますます重要性が高まる職業です。向き不向きを理解し、長期的に学び続ける姿勢を持てば、安定したキャリアと大きなやりがいを得られるでしょう。
よくある質問
Q.言語聴覚士(ST)と理学・作業療法士の違いはなんですか?
言語聴覚士(ST)は、「話す」「聞く」「食べる」などの機能に障がいをもつ人を対象に、言語訓練や嚥下訓練を行う専門職です。一方、理学療法士は主に歩行や筋力などの身体機能の回復を支援し、作業療法士は日常動作や認知機能の改善を目的とした訓練を行います。
対象となる障がいや訓練の方法が異なるため、職域や専門性も明確に分かれています。いずれもリハビリテーション職ではありますが、支援対象や目的が異なるため、仕事内容には大きな違いがあります。
Q.言語聴覚士(ST)として独立開業は可能ですか?
言語聴覚士(ST)は、医療系国家資格であり、一定の条件を満たせば個人で開業することも可能です。
たとえば、訪問リハビリや小児専門の訓練施設などを開設するケースがあり、法人化して経営する人もいます。
ただし、保険診療を行うには医師の指示や連携体制が必要となるため、開業前に制度や地域の医療体制を十分に理解しておくことが重要です。
また、独立に際しては実務経験や資金計画、運営スキルも必要となります。医療機関との連携や地域ニーズの把握が、成功につながります。
Q.言語聴覚士(ST)における小児領域はどんな仕事内容ですか?
小児分野では、発音の遅れ、ことばの理解の弱さ、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障がいをもつ子どもを対象に、言語やコミュニケーションの訓練を行います。
訓練は個別または小集団で行われ、遊びや絵カード、音声教材などを用いたプログラムが一般的です。
対象年齢は主に未就学児〜小学校低学年が中心で、保護者への指導や支援も重要な役割です。発達障がいへの理解が進む近年、小児分野の需要は急増しており、放課後等デイサービスや療育施設などでの求人も増えています。
Q.言語聴覚士(ST)の資格取得に必要な学歴や費用を教えて下さい。
言語聴覚士国家試験の受験資格を得るには、指定の大学・専門学校・養成課程を修了する必要があります。進学ルートには、高卒から4年制大学・3年制専門学校へ進む方法と、他の医療資格をもつ社会人が2年制課程に通う方法があります。
学費は学校によって異なりますが、大学では年間140万〜160万円程度です。さらに、実習費や教科書代、国家試験対策費用なども発生します。
Q.言語聴覚士(ST)は社会人や他職種からの転職も可能ですか?
言語聴覚士(ST)は国家資格であるため、年齢や職歴に関係なく、所定の養成課程を修了すれば誰でも受験資格を得られます。
特に看護師、保健師、心理職など医療・福祉系の資格を有する社会人は、2年制の短期課程で学べる制度も整っています。
また、文系出身者でも受験できる大学や専門学校があるため、キャリアチェンジを希望する人にも門戸は開かれています。
ただし、学費や学業の負担を事前に計画することが重要です。働きながら学ぶ通信制は現在存在しないため、通学型が基本となります。
Q.言語聴覚士(ST)になるための学費はどれくらい必要ですか?
言語聴覚士(ST)を目指すには、大学や専門学校などの養成課程で3年以上学ぶ必要があります。4年制大学では年間およそ140〜160万円、初年度は入学金を含め約175万円が目安です。
一方、専門学校は年間110〜140万円で、初年度は約150万円が平均とされています。これに加えて教科書代や実習関連費用などの諸経費も必要になります。
奨学金や教育訓練給付制度を活用すれば、経済的負担を軽減しながら資格取得を目指すことが可能です。

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
