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- ユニバーサルデザインが何かを知りたい人年齢や障害の有無に関わらず、誰もが使いやすい製品や環境の考え方を学びたい方におすすめです。
- 介護や福祉の仕事で、使いやすい環境づくりに関わっている人利用者が安全かつ快適に過ごせるよう、施設や住環境の改善に取り組む職種の方に役立ちます。
- 福祉住環境コーディネーターの勉強を始めた人試験対策や現場での提案力向上のため、ユニバーサルデザインの知識を深めたい方に最適です。
- 家の中をもっと使いやすくしたいと考えている家族や本人手すりの設置や段差解消など、日常生活の安全性と快適性を高めるためのヒントが得られます。
- 子どもや高齢者にもやさしい商品・デザインに興味がある人誰にとっても負担が少なく、安心して使える製品や空間づくりのアイデアを知りたい方にぴったりです。
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ユニバーサルデザインとは
ここではユニバーサルデザインの基本的な考え方や目的、関連する用語との違いについて解説します。
ユニバーサルデザインの意味と定義
ユニバーサルデザインとは、年齢、性別、国籍、障がいの有無などにかかわらず、すべての人にとって使いやすいよう配慮された製品やサービス、建築、環境などの設計思想を指します。
特定の利用者に限定せず、最初からさまざまな人々を想定して設計する点が特徴です。
この考え方は、アメリカの建築家ロナルド・メイス氏によって1985年に提唱されたとされ、「ユニバーサルデザインの7原則」に基づいて広がりました。例えば、自動ドア、音声と文字で案内される駅のサイン、誰でも操作しやすいエレベーターのボタン配置などがその一例です。
ユニバーサルデザインは、「誰かのため」ではなく「みんなのための設計」として、教育や福祉、商品開発など多様な分野で取り入れられています。
バリアフリーとの違い
ユニバーサルデザインと混同されやすい用語に「バリアフリー」がありますが、両者のアプローチには明確な違いがあります。
バリアフリーは、主に高齢者や障がいのある方々が直面する物理的・制度的な障壁(バリア)を、後から取り除く対処的な設計を意味します。例としては、階段に後からスロープや手すりを追加することなどが挙げられます。
それに対し、ユニバーサルデザインは、初めから誰もが使いやすいように配慮された設計であり、予防的な考え方に基づいています。たとえば、床に段差がない建物設計や、音声・視覚の両方で情報提供を行う案内表示などが該当します。
ユニバーサルデザインは、バリアフリーの考え方を包含しつつ、より広範な人々を対象とした設計理念といえるでしょう。両者を併用することで、より包括的な共生社会の実現が期待されています。

ユニバーサルデザインが注目される背景
ここではユニバーサルデザインが社会的に注目されるようになった背景について解説します。
日本の人口構造の変化や、価値観の多様化、国際的な取り組みとの関連性が深く関係しています。
少子高齢化・人口減少への対応
日本では少子高齢化が進み、総人口も減少傾向にあります。総務省統計局「人口推計」2025年(令和7年)7月報によれば、65歳以上の高齢者の割合は29%を超えており、今後も高齢化が進行する見込みです。
このような状況に対応するためには、年齢や障がいの有無に関係なく、誰もが自立して生活できる環境づくりが求められています。
ユニバーサルデザインは、その実現において重要な役割を果たすと期待されているのです。たとえば、段差のない歩道や分かりやすい案内表示、多言語対応の設備などは、高齢者や外国人にとって利用しやすいだけでなく、誰にとっても快適な環境を提供します。
労働人口が減少する中で、多様な人々が社会に参加できる仕組みを整えることは、経済の維持にもつながります。ユニバーサルデザインは、持続可能で包括的な社会の基盤として注目されているのです。
【高齢化・人口減少への対応としての取り組み例】
- 段差のないバリアフリー設計(駅、商業施設、住宅など)
- 視認性を高めたサイン・案内表示(高コントラスト、大文字など)
- 車いすやベビーカーも使える広めの通路・エレベーター
- 自動音声案内や触知図など、感覚の多様性に配慮した設備
- 誰もが操作しやすいインターフェース(ATM、券売機など)
ノーマライゼーションと多様性の尊重
ノーマライゼーションとは、障がいの有無にかかわらず、すべての人が社会の中で分け隔てなく生活できることを目指す理念です。1960年代に北欧で提唱され、日本でも障がい者福祉政策の基本理念の一つとして定着しています。
ユニバーサルデザインは、このノーマライゼーションを現実の環境や製品の中で実現するための具体的な手段です。
誰もが同じようにアクセスできる設計は、障がい者だけでなく、外国人、子ども、LGBTQ+の人々、高齢者など、多様な立場にある人々に配慮したものです。
たとえば、性別に関係なく使えるトイレや、情報を視覚・聴覚両方で伝える案内システムなどは、多様性を尊重する社会づくりに貢献します。
ユニバーサルデザインの考え方は、多様な人が共生できるインクルーシブ(あらゆる人が分け隔てなく参加・利用・共存できることを目指す考え方や状態)な社会の実現に欠かせない視点です。
【配慮が求められる多様な利用者とユニバーサルデザインの例】
- 【障がいのある人】点字ブロック、音声案内、段差解消など
- 【高齢者】見やすい文字、座りやすいベンチ、照明の配慮
- 【子ども】低めの洗面台、簡単な操作ボタン、安全な素材
- 【外国人】多言語表示、ピクトグラム(絵記号)の活用
- 【LGBTQ+】ジェンダーニュートラルトイレ、性別を問わないサービス
SDGsとの関係と貢献できる目標
ユニバーサルデザインは、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」とも密接に関係しています。特に、目標10の「人や国の不平等をなくそう」や目標11「住み続けられるまちづくりを」は、ユニバーサルデザインの取り組みと深く関わる目標です。
具体的には、すべての人にとって使いやすい公共交通機関や建築物の設計、視覚・聴覚に対応した情報提供の整備などが、社会の包摂性を高めます。
教育や雇用の機会へのアクセス改善を通じて、目標4の「質の高い教育をみんなに」や目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも貢献します。
ユニバーサルデザインは、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念と一致しており、企業や行政が持続可能な社会づくりを進める上で重要な要素となっているのです。

ユニバーサルデザインの7原則
ここでは、ユニバーサルデザインを実現するための基本的な「7つの原則」について解説します。
これらは年齢や障がいの有無、文化的背景に関係なく、すべての人にとって利用しやすい設計を目指す際の指針とされています。
【公平性】誰にでも公平に利用できること
公平性の原則とは、「すべての人が同じ方法・同じ条件でサービスや製品を利用できる」ように設計することです。
年齢や障がい、文化、言語などの違いを問わず、公平なアクセスが確保されることが理想とされています。
たとえば、駅の自動改札やエレベーターのボタンが、立場に関係なく使える位置・高さに設置されているのはこの原則に基づいた設計です。
公平性とは「特別な配慮をすること」ではなく、「すべての人が等しく扱われること」を意味します。この考え方が広がることで、社会全体のアクセシビリティの向上が期待されているのです。
なお、アクセシビリティとは、年齢や障がいの有無にかかわらず、すべての人が平等に情報やサービス、場所などにアクセスできることを指します。
【公平性の具体例】
- 車いす利用者でも押しやすい高さのエレベーターボタン
- 子どもや小柄な人も使える自動改札機の設計
- 多言語表示による外国人への配慮
- すべての人が使える共通の出入口や手続き導線
【自由度】選択肢と使い方の自由
自由度の原則は、利用者が自分の好みや身体的条件に応じて複数の使い方を選べるようにする考え方です。人にはそれぞれ異なる使いやすさや慣れがあります。
たとえば、タッチパネルと音声案内のどちらでも操作可能な案内システムや、電子書籍で文字の大きさや配色を自由に変更できる機能などが該当します。
このような多様な選択肢の提供は、障がいのある人だけでなく、外国人や高齢者にとっても利便性を高める効果があります。自由度の高い設計は、利用者の尊厳と自立性を守るための大切な視点です。
【自由度の具体例】
- タッチ操作・音声操作の両方に対応した案内機器
- 右利き・左利きどちらでも使える道具の設計
- スマートフォンの表示調整(文字サイズ・配色など)
- 紙とデジタルの選択肢を用意した申請手続き
【簡単さ】使い方が直感的でわかりやすい
簡単さとは、誰にとっても操作方法や使い方が直感的にわかるように設計することです。製品やサービスを初めて使う人でも、見ただけで操作が理解できることが求められます。
例として、ピクトグラム(視覚記号)を使った案内標識や、用途がすぐに分かるボタン配置などが挙げられます。
この原則は、外国人や子ども、ICT機器に慣れていない高齢者にも配慮された設計に不可欠です。複雑なマニュアルが不要な直感的設計は、混乱や不安を減らし、快適なユーザー体験を提供します。
【簡単さの具体例】
- 意味が直感的に伝わるピクトグラム表示
- 色分けされたボタン(赤=停止、緑=開始など)
- 凹凸や材質で用途が分かるスイッチやつまみ
- 操作ステップを最小限に抑えたインターフェース設計
【明確さ】必要な情報が正確に伝わる
明確さの原則とは、利用者が必要な情報を適切な方法とタイミングで受け取れるようにすることです。人によって認知方法は異なるため、情報は可能な限り複数の形式(視覚、音声、触覚など)で提供することが推奨されます。
たとえば、駅構内の案内では文字情報に加えて音声や点字による補助があると、視覚・聴覚に障がいのある人にも対応できます。
災害時などの緊急情報は即時性と明瞭性が特に重要です。情報伝達の工夫は、安全性や利便性だけでなく、信頼にもつながります。
【明確さの具体例】
- 視覚・聴覚・触覚を組み合わせた案内(文字+音声+点字)
- 緊急時に即座に通知される音声や光の警報システム
- 高コントラストで読みやすい文字表示
- 外国語表記や絵記号による言語の壁への配慮
【安全性】誤操作による危険を防ぐ
安全性の原則は、誤った使い方をしても利用者が危険な目にあわないようにする設計のことです。誤操作そのものが起きにくい工夫も含まれます。
例として、電子機器における「確認メッセージ」や「操作ロック」、階段への滑り止め、視認しやすい段差表示などが挙げられます。
誰にでもミスは起こり得るため、安全性に配慮した設計は特定の人に限定されず、全体の安心感を高めることに貢献します。重大事故を未然に防ぐ点でも、この原則は重要だと言えるでしょう。
【安全性の具体例】
- 操作前に確認画面が表示される電子機器
- 滑りにくい床材や階段のノンスリップ加工
- 誤接続を防ぐ形状の異なる差込口
- 誤って触れても作動しないカバー付きスイッチ
【持続性】少ない負担で長く使える
持続性の原則とは、長時間または繰り返しの利用においても、身体的・精神的に疲れにくい設計であることを指します。
軽い力で開けられるドア、自動開閉の蛇口、長時間立たなくてよいベンチの配置などが具体例です。入力デバイスや表示装置が、無理な姿勢を取らずに操作できる位置にあることも大切です。
持続的に利用しやすい設計は、高齢者や妊娠中の方、慢性的な痛みや疲労を抱える人々にとって大きな助けとなり、製品や施設の利便性を高めます。
【持続性の具体例】
- 軽い力で開け閉めできるドアや蛇口
- ベンチを設置した休憩スペース
- 高さ調整が可能な作業台や椅子
- 手や腕への負担を軽減する軽量な操作機器
【空間性】誰でもアクセスしやすい空間
空間性の原則は、すべての人が無理なく移動・利用できるスペースの確保と設計を目指すものです。車いすやベビーカーを使う人、視覚に障がいのある人など、身体の使い方が異なる利用者に配慮することが求められます。
たとえば、廊下の幅を広めに取る、エレベーターの操作パネルを低い位置にも設ける、点字ブロックや音声案内の導入などが挙げられます。
空間の配置やサイズを工夫することで、誰もがストレスなく利用できる環境を提供できます。
【空間性の具体例】
- 車いすが旋回できる十分な通路幅
- ベビーカーも通れる段差のないフロア構成
- 点字ブロックや音声案内による視覚障がい者への配慮
- 手すり付きの緩やかなスロープや階段

【具体例】身の回りにあるユニバーサルデザイン
ここでは、私たちの生活の中で実際に活用されているユニバーサルデザインの事例を紹介します。
家庭内の設備や街中の公共インフラ、さらに身近な製品・道具など、あらゆる場面で取り入れられている工夫を解説します。
家庭内にあるユニバーサルデザイン(浴室・トイレ・照明など)
家庭内にもユニバーサルデザインは広く浸透しています。浴室では、滑りにくい床材、浴槽の手すり、温度調整が簡単な混合水栓などが、安全性と操作性の両面から配慮されています。
トイレでは、自動開閉機能付きの便ふたや、立ち座りしやすい便座の高さ、視覚的にわかりやすいピクトグラムの表示などが例に挙げられます。
照明機器では人感センサー付きの自動点灯、調光・調色が可能なライトなどが、年代や状況に関係なく使いやすい設計となっています。
こうした配慮は、高齢者や子ども、障がいのある方のみならず、すべての人にとって快適で安全な生活環境づくりに役立つでしょう。
【家庭内に見られるユニバーサルデザインの具体例】
- 滑りにくい床材や段差の少ない浴室設計
- 手すり付きの浴槽・シャワーエリア
- ワンタッチで温度調整ができる混合水栓
- 自動開閉するトイレの便ふたや自動洗浄機能
- わかりやすいピクトグラム表示や大きなスイッチ
- 人感センサー付き照明や調光・調色可能なライト
街中・公共施設の事例(自動ドア・信号機・点字ブロックなど)
街や公共施設にも、ユニバーサルデザインの理念に基づいた設備が多く取り入れられています。たとえば、自動ドアは手を使わずに通行できるため、車いす利用者やベビーカー利用者、荷物を持つ人にとって利便性が高い設計です。
視覚障がい者を支援する音声付き信号機や、点字ブロックは、移動時の安全確保に貢献しています。近年では音声信号の切り替え機能や、発信機連動型の信号機なども増えており、さらなる利便性向上が図られています。
駅や空港では、多言語対応の案内表示、視覚的に分かりやすいピクトグラム、スロープやエレベーターの設置など、国籍や障がいの有無を問わず、すべての人が安心して移動できる環境整備が進んでいます。
分野 | ユニバーサルデザインの事例 |
---|---|
移動のしやすさ | ・自動ドア(車いす・ベビーカー利用者への配慮) ・スロープやエレベーターの設置 |
情報の伝達 | ・音声付き信号機や振動式信号機 ・多言語+ピクトグラムによる案内表示 |
安全誘導 | ・点字ブロック(誘導タイプ・警告タイプ) ・視認性の高い手すりや階段の色分け |
製品や道具の事例(文房具・ペットボトル・スマートフォン・紙幣)
日常的に使用される製品や道具の中にも、ユニバーサルデザインの要素は数多く取り入れられています。
たとえば、太めのグリップで握力の弱い人にも扱いやすいボールペン、左利きでも快適に使えるノート、持ちやすく工夫された形状のペットボトルなどが挙げられるでしょう。
スマートフォンには、文字サイズや背景色を調整する機能、音声読み上げ、画面拡大などのアクセシビリティ機能が標準搭載されています。
日本の紙幣には、視覚障がい者のための識別マーク(表面にある触覚でわかる凹凸)が導入されており、2024年発行の新紙幣でも改良が加えられています。これらの製品は、特別な用途ではなく、あらゆる人が快適に使えるよう設計された「共用品」の好例といえるでしょう。
出典:ユニバーサルデザインってなんだろう?身の回りから探してみよう|東京都
【日常製品に見られるユニバーサルデザインの工夫例】
製品・道具 | ユニバーサルデザインの要素 |
---|---|
ボールペン | 握力の弱い人でも使いやすい太いグリップ |
ノート | 左利きでも書きやすい中綴じやリングの位置調整 |
ペットボトル | 開けやすい形状のキャップ、持ちやすいくぼみ |
スマートフォン | 音声読み上げ、画面拡大、色反転、ジェスチャー操作などのアクセシビリティ機能 |
日本銀行券(紙幣) | 視覚障がい者向けの識別マーク(凹凸)、額面ごとのサイズ差やユニバーサルフォント採用 |

珍しいユニバーサルデザイン一覧
ユニバーサルデザインというと建築物や公共施設が注目されがちですが、日用品にも創意工夫を凝らした製品が多数あります。ここでは、あまり知られていないユニークなユニバーサルデザイン製品をまとめました。
製品名 | 特徴 | 配慮されている点 |
---|---|---|
いちどにありがとう32 | 片手で複数の洗濯ばさみを同時に開閉できるハンガー | 握力や動作に制限がある方でも洗濯作業がしやすい |
UDグリップ包丁 | 持ち手の角度調整で少ない力でも切れる | 手首に負担をかけず、座ったままでも調理しやすい |
ワンタッチペーパーホルダー | 片手でトイレットペーパーをカットできる構造 | 片手しか使えない人でもトイレ動作がスムーズに行える |
片手で洗濯できるピンチハンガー
「いちどにありがとう32」は、片手でまとめて洗濯ばさみを開閉できるユニークなハンガーです。
握力に自信がない方や手に障がいがある方でも、効率よく洗濯物を干したり取り込んだりできます。操作のしやすさと省力化を兼ね備えたデザインで、高齢者や子どもにも優しい仕様です。
出典:いちどにありがとう32|Image Craft 株式会社
出典:いちどにありがとう 32|GOOD DESIGN AWARD
手首に負担をかけないUD包丁
手首の可動域に制限がある人のために開発された「UDグリップ包丁」は、持ち手の角度を工夫することで、少ない力でも切れる構造になっています。
テコの原理を活かした設計により、座ったままでも安全に調理できる点が特長。介護の現場や家庭での自立支援にも活用されています。
出典:ユニバーサルデザイン~手に負担のかからない包丁~ - 兵庫県立工業技術センター
片手で使えるトイレットペーパーホルダー
「ワンタッチペーパーホルダー」は、片手で紙を切れるように設計された便利なトイレアイテムです。
フタの跳ね上がりを抑える構造により、片手しか使えない状況でもスムーズに操作できます。怪我や麻痺のある方、幼児、高齢者など幅広い利用者への配慮が反映された製品です。

ユニバーサルデザインの伝達手段
ここでは、情報を多様な人々に正確に届けるために工夫されたユニバーサルデザインの伝達手段について解説します。
視覚・聴覚・触覚など、複数の感覚に対応した情報提供の方法や、文字の読みやすさに配慮した工夫を紹介します。
ピクトグラムや色による視覚的配慮
視覚情報は、言語や文化に左右されにくく、直感的に伝わりやすい特徴があります。
特にピクトグラム(絵記号)は、非常口、トイレ、エレベーターなどの案内に多用されており、世界中で共通認識されるデザインが多数存在します。
出典:TOKYO‐ユニバーサルデザイン ガイドライン|東京都
これにより、日本語が読めない訪日外国人や、文字を読むことが難しい人にとっても情報が伝わりやすくなります。色の使い方にも注意が必要です。
たとえば、赤と緑の組み合わせは色覚多様性(色覚障がい)のある方には識別が困難なため、形や文字との組み合わせで伝える必要があります。
視覚的伝達は誰にとっても分かりやすい一方で、全員が等しく理解できるような補足の工夫も大切です。
点字・音声による情報提供
点字は、触覚を使って情報を読み取る手段であり、視覚障がい者にとって日常生活の重要な情報源です。駅の案内板、エレベーターの階数ボタン、商品パッケージ、紙幣などに採用されています。
音声案内も有効な手段で、駅や公共施設、バス停では、行き先や注意事項を音声で伝える装置が設置されています。
近年では、音声読み上げ機能を搭載したスマートフォンや、ICカードと連動した信号機など、技術進化によって提供範囲が拡大していることも特徴の一つです。
点字と音声の組み合わせにより、より正確で多様な情報提供が可能となり、視覚以外の手段による伝達が実現されています。
ユニバーサルデザインフォントの活用
ユニバーサルデザインフォントは、誰にとっても読みやすい文字を目指して開発された書体です。
特に「1(数字の1)」と「l(小文字のL)」の区別や、「6」と「8」の見間違いを避けるために、字形を明確にする工夫が施されています。
このような配慮は、視力が弱い高齢者や、ディスレクシア(読み書きに困難のある人)などにも有効です。行政文書や公共交通機関の案内表示、学校の教科書などにも導入が進んでおり、全体の可読性向上に寄与しています。
特定の利用者に配慮するだけでなく、すべての人にとっての「読みやすさ」を基準にすることが、ユニバーサルデザインの本質です。
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教育現場におけるユニバーサルデザイン
ここでは、教育現場で実践されているユニバーサルデザインについて解説します。
すべての児童・生徒が安心して学びやすくなるように工夫された教室環境や教材、ICTを活用した支援事例などを紹介します。
教室環境と教材に求められる配慮
教育の場では、子どもたちの多様な背景や特性に配慮し、物理的・心理的に負担の少ない環境づくりが求められます。
たとえば、座席の配置を自由に変えられる可動式の机や椅子、吸音効果のある床材、目に優しい間接照明の採用などは、集中しやすい環境の整備に繋がるでしょう。
教材においては、フォントの大きさや行間に配慮したプリント資料、色覚多様性に配慮した色使い、イラストや図解を取り入れた視覚的教材が理解を促します。こうした工夫により、すべての子どもが安心して授業に参加できる学習環境の構築が可能となります。
【ユニバーサルデザインに基づく教室内の工夫例】
- 可動式の机や椅子を採用し、座席の柔軟な配置が可能
- 騒音を軽減するための吸音材を使用した床や壁
- 色覚多様性に配慮した教材の配色(例:赤と緑以外の組み合わせ)
- フォントサイズ・行間に配慮したプリント教材
- イラストや図解で視覚的に理解しやすくした学習資料
ICTやデジタル教科書体の活用事例
教育現場では、GIGAスクール構想の推進により、ICTの導入が進みました。
タブレット端末では、音声読み上げ、画面拡大、背景色の変更など、多様な機能が活用され、視覚や発達に課題を抱える児童にも対応可能な学習環境が実現されています。
出典:ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりガイドブック|さいたま市
デジタル教科書や学習アプリの中には、ユニバーサルデザインフォントを採用しているものもあり、読み書きに苦手意識のある子どもへの配慮がなされています。
出典:ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりガイドブック|さいたま市
個別最適化された学習支援が可能になることで、障がいの有無にかかわらず、すべての児童生徒の学習意欲と理解を促す土台が整えられています。
【デジタル教科書やICT機器に備わるユニバーサルデザイン機能の例】
- 音声読み上げ機能(視覚障がい・読字障がいへの対応)
- 画面拡大・縮小(視力が弱い児童への配慮)
- 背景色や文字色の変更機能(視覚的ストレスの軽減)
- 個別の学習ペースに合わせた課題提示
- ユニバーサルデザインフォントによる誤読防止

ユニバーサルデザインの企業活用事例
ここでは、ユニバーサルデザインを積極的に取り入れている企業の具体的な事例を紹介します。
建築や住宅、医療・福祉、教育、玩具・娯楽といった多様な分野で、誰もが使いやすい製品・サービスを実現する取り組みが進んでいます。
建築・住宅分野の取り組み
株式会社LIXILは、身体的条件を問わず利用しやすい製品づくりに力を入れています。
たとえば、座ったままでも使える洗面台や、握力が弱くても操作できるレバー式水栓、便器の高さ調整が可能なトイレなど、日常の使いやすさを重視した製品を展開しています。
出典:公共空間のUDアイデア‐LIXIL|ユニバーサルデザイン
鹿島建設株式会社では、公共施設や病院などの大規模建築において、動線・照明・サインなどを含めた空間設計にユニバーサルデザインを導入。誰にとっても「わかりやすく、安心して利用できる建物」を目指しています。
医療・福祉・教育分野の実例
医療分野では、協和キリン株式会社が自己注射をサポートするユニバーサルデザインに注力しています。
自社開発した皮下注射製剤のデバイスには、視覚障がい者や高齢者向けの音声ガイド機能や、握りやすい形状などの工夫が反映されています。
出典:【解説記事】ユニバーサルデザインとは!7つの原則と5つの活用事例を解説|Stories|協和キリン
教育分野では、株式会社ベネッセホールディングスが、発達障がいや読み書きに困難を抱える児童にも対応したICT教材を展開しています。
ユニバーサルデザインフォントの採用、色使いへの配慮、拡大表示など、使いやすさを重視した設計により、誰もが自分に合った学習スタイルを選べる環境を構築しているのです。
玩具・娯楽におけるデザイン(バンダイナムコの例など)
株式会社バンダイナムコホールディングスは、誰もが遊びを楽しめる環境づくりを目指しています。視覚障がい児向けに、音や振動で遊べる電子玩具や、触感で遊ぶフィギュアなどを開発しています。
娯楽におけるユニバーサルデザインは、年齢や特性に関わらず「楽しむ機会」を平等に提供するための重要な視点だといえるでしょう。

ユニバーサルデザインの未来と展望
ここでは、今後の社会においてユニバーサルデザインがどのように発展し、どの分野でさらに活用されていくのかを解説します。
注目される国際イベントでの実践や、企業・自治体における導入が加速する背景をもとに、今後の展望を考察します。
大阪・関西万博での活用と可能性
2025年に開催の大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、ユニバーサルデザインの理念が各会場設計や来場者サービスに反映されています。
出典:施設整備に関するユニバーサルデザインガイドライン|EXPO2025 大阪・関西万博公式Webサイト
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は、会場アクセス、施設、トイレ、サイン計画などにおいて、障がいの有無、年齢、国籍にかかわらず「誰もが利用しやすい空間設計」を目指すことを明記しています。
出典:ユニバーサルデザインガイドライン 展示・催事/演出・飲食/物販|EXPO2025 大阪・関西万博公式Webサイト
具体的には、段差のないルート設計、点字・音声・多言語での案内表示、AIやロボットによるサポート、感覚過敏のある方への環境配慮などが挙げられます。
こうした取り組みは、万博を契機に全国の都市整備や公共施設に波及する可能性が高いと考えられるでしょう。
企業・自治体の導入が進む背景
国内では少子高齢化の進行とともに、身体的・言語的・文化的な多様性への配慮が求められています。
企業にとっては、誰もが使いやすい製品・サービスを開発することで、高齢者や障がい者、外国人など幅広いニーズに応えることが可能になり、結果として市場の拡大やブランドイメージの向上につながります。
自治体においても、公共交通、福祉施設、教育機関などの設計や運営にユニバーサルデザインを導入することで、住民の生活の質を高めるとともに、観光客の受け入れ体制の強化にもつなげることが可能です。
加えて、国連のSDGs(特に目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」)への対応としても注目されています。
導入主体 | 主な目的・背景 | 想定される効果 |
---|---|---|
企業 | 高齢者や障がい者など多様な顧客への対応 ブランド価値の向上 | 市場拡大、新規顧客獲得、社会的評価の向上 |
自治体 | 地域住民の安全・快適性の確保 観光・インバウンド対応 | QOL(生活の質)向上、移住促進、観光客の満足度向上など |

ユニバーサルデザインの商品・製品一覧
ここでは、日常生活で身近に使用されているユニバーサルデザインの商品・製品を紹介します。
文房具や生活用品など、年齢や身体的特性に関わらず、多くの人が使いやすいよう設計されたアイテムの特徴や、選び方のポイントについてまとめました。
文房具に見るユニバーサルデザインの工夫
文房具は幅広い年齢層が日常的に使用するため、誰にとっても使いやすいデザインが求められます。
たとえば、握力が弱い方でも扱いやすい太めのグリップのボールペンや、左利きの方でも使いやすい左右対称のはさみ、軽い力で切れるスプリング内蔵式のカッターなどが挙げられます。
筆記疲労を軽減する軽量素材の筆記具や、インクのにじみを防ぐ高吸収紙を使ったノートも、使用感への配慮がなされた製品です。
見た目は一般的な文具と大きく変わらず、自然に使える点が特徴であり、結果として多様な利用者の学習や業務を支える存在となっています。
【ユニバーサルデザインが施された文房具の具体例】
- 太めのグリップで握りやすいボールペン
- 左右対称設計で使いやすいはさみ(右利き・左利き両対応)
- 軽い力で切れるスプリング内蔵式カッター
- インクのにじみを防ぐ高吸収紙を使用したノート
- シャープペンシルの滑り止めグリップや軽量ボディ
日常で使えるアイテムの特徴と選び方
ユニバーサルデザインの日用品は、使いやすさ・安全性・直感的な操作性に配慮して設計されています。
たとえば、ペットボトルのキャップは滑り止め加工や指がかけやすい溝があり、指先の力が弱い方でも開けやすくなっています。
家電製品では、大きなボタンとシンプルな表示のリモコンや、音声ガイド付き電子レンジ、操作音や色で状態がわかる炊飯器などが代表例です。
製品を選ぶ際には、「動作が簡単か」「表示がわかりやすいか」「視覚や聴覚への配慮があるか」などをチェックしましょう。実際の使い方をイメージし、使用者の立場から確認することが、満足度の高い選択につながります。
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身の回りにあるユニバーサルデザイン一覧
ここでは、私たちの生活環境に自然に取り入れられているユニバーサルデザインの事例を紹介します。
家庭や学校、駅や公園などの身近な場所にどのような工夫があるのかを知ることで、日常生活の中での気づきや理解を深められるでしょう。
家・学校・公共の場で見つかる例
家庭内では、人感センサー付き照明や段差のない床、温度調整がしやすいレバー式水栓などが代表的な例です。
学校では、ピクトグラム付きのトイレ表示、高さ調整可能な机・椅子、誰でも使いやすい手すりの設置などが見られます。
公共施設では、点字ブロック、音声案内付き信号機、自動ドア、多言語表示の案内サインが整備されており、視覚・聴覚・身体の多様な特性に配慮した環境づくりが進んでいます。
これらの設計は、特定の人に限定せず、できるだけ多くの人が利用しやすいことを目指しています。
【ユニバーサルデザインが取り入れられている主な例】
分野 | ユニバーサルデザインの事例 |
---|---|
家庭 | ・人感センサー付き照明 ・段差のない床 ・バリアフリー設計 ・レバー式の混合水栓(蛇口) |
学校 | ・高さ調整ができる机や椅子 ・ピクトグラム付きの案内表示 ・廊下の手すり ・滑り止め付き床材 |
公共施設 | ・点字ブロック ・音声案内付き信号 ・自動ドア ・スロープ ・多言語対応の案内サイン |
自分で見つけてみよう!ユニバーサルデザイン探し
ユニバーサルデザインは、特別な施設だけでなく、私たちの身の回りに広く存在しています。
たとえば、駅のホームドア、誰でも押しやすい大型のエレベーターボタン、レバー式のドア取っ手、音声読み上げ機能付きの家電などがあります。
見つけるコツは、「どんな人でも使いやすいか?」「迷わず操作できるか?」といった視点を持つことです。
こうした視点を日常生活に取り入れることで、身近な環境に対する関心や社会的配慮への意識が高まり、自分自身の暮らし方や周囲への理解にもつながるでしょう。
見つける場所 | ユニバーサルデザインの例 |
---|---|
公園 | ・手すり付きベンチ ・広い歩道 ・視覚障がい者向け誘導路 |
駅・交通機関 | ・点字案内 ・ホームドア ・音声案内 ・エレベーターの大型ボタン |
コンビニ・商業施設 | ・自動ドア ・セルフレジの音声案内 ・段差のない出入り口 |
自宅 | ・ドアレバー ・水栓 ・滑りにくい浴室マット ・センサー照明 |

まとめ
ユニバーサルデザインとは、年齢や障がい、文化的背景にかかわらず、すべての人にとって使いやすいように設計された考え方です。本記事では、その定義やバリアフリーとの違い、7つの原則についてわかりやすく解説しました。
家庭や学校、公共施設、商品・文房具など、身近な場所にもユニバーサルデザインは広がっており、実例を通して理解が深まります。
教育現場や企業・自治体での取り組み、大阪・関西万博での活用例などからも、社会全体での関心の高まりがうかがえます。
今後ますます多様性が尊重される時代において、ユニバーサルデザインは「誰一人取り残さない」社会を実現する鍵となるでしょう。まずは身近なところから、その工夫に気づき、理解を深めることが大切です。
よくある質問
Q.ユニバーサルデザインとは何か、簡単に言うと?
ユニバーサルデザインとは誰にとっても使いやすく、安全で快適に利用できるように工夫されたデザインのことです。
Q.ユニバーサルデザインは誰が提唱したの?
ユニバーサルデザインは、1985年にアメリカの建築家ロナルド・メイス氏によって提唱されました。
Q.ユニバーサルデザインとバリアフリーと何が違うの?
バリアフリーは既存の障壁を取り除く考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインは最初から全員に使いやすく設計するという考え方です。
Q.ユニバーサルデザインの代表的な例は?
ユニバーサルデザインの代表的な例として、自動ドアや音声案内付き信号、点字ブロック、レバー式ドアノブなどが挙げられます。
Q.ユニバーサルデザインとは一言で言うとどんなデザイン?
ユニバーサルデザインは、「みんなのための使いやすいデザイン」です。
Q.家の中にあるユニバーサルデザインの例は?
家の中にあるユニバーサルデザインの例として、センサーライトや滑りにくい床材、レバー式蛇口、段差のない玄関などが挙げられます。
Q.身近な場所でユニバーサルデザインを見つけるにはどうすればいい?
「誰でも使いやすいか」を意識して、街中や建物、製品を観察してみるとユニバーサルデザインを見つけやすくなるでしょう。
Q.ユニバーサルデザインの今後の広がりや進化の方向性は?
AIやICT技術と連携し、より個別のニーズに対応したユニバーサルデザインへ進化すると期待されています。
Q.ユニバーサルデザインの仕事の年収は?
ユニバーサルデザインに関わる職種は、建築士やデザイナー、福祉用具専門相談員、行政職など多岐にわたります。
年収は職種や経験、所属する企業や自治体によって異なりますが、おおむね300万〜600万円程度が相場と言えるでしょう。
特に建築や設計の専門職では、高度な資格や実績によって年収700万円以上も可能です。ニーズの高まりにより今後の待遇改善も期待されます。
出典:建築設計技術者 - 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
