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- 人事・総務部門の担当者従業員の安全と健全な職場環境を守る責任があり、ハラスメント対応の「初期対応」や「相談窓口の整備」も任されることが多いため。法律や厚労省の指針に沿った対応を知っておく必要があります。
- 管理職・マネージャー層部下との関わり方によってハラスメントが「無意識に起きる」リスクがあり、リーダーシップの発揮や指導方法にも注意が必要なため。パワハラやジェンダーハラスメントの防止には、日常の言動改善が重要です。
- これから就職・転職を考えている人職場選びの際に、ハラスメント対策がしっかりしているかどうかを見極める視点を持つことで、入社後のトラブルを回避できます。また、自分の権利を守るためにも知識は不可欠です。
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ハラスメントとは?定義と意味
ハラスメントとは、人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」など、相手に不快感を与える行為全般を指します。職場や学校、家庭などさまざまな場面で発生します。
なかでも職場においては、従業員のメンタルヘルスや業務環境に深刻な影響を及ぼすため、社会問題として特に注目されています。
ここでは、ハラスメントの定義や意味、職場などで問題となる背景について解説します。
厚生労働省が定める職場におけるハラスメントの定義
職場におけるハラスメントは、業務上の立場や関係性を利用して、相手に身体的・精神的苦痛を与える行為です。たとえば、大声での叱責や無視、性的な発言、妊娠・出産・育児に対する嫌がらせなどが該当します。
厚生労働省が令和6年11月に作成した職場におけるハラスメント対策パンフレットにおいて、パワーハラスメントを以下のように定義しています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。 |
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日本におけるハラスメントの現状
令和5年度に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年以内にパワハラを受けた人は19.3%、相談件数も6万件を超えました。被害は心身に影響し、働きづらさにつながるため、対策は喫緊の課題です。
ハラスメントの種類 | 相談がある | 相談はない | 把握していない |
---|---|---|---|
パワハラ | 64.2% | 33.2% | 2.7% |
セクハラ | 39.5% | 56.9% | 3.6% |
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント | 10.2% | 85.1% | 4.7% |
介護休業等ハラスメント | 3.9% | 90.6% | 5.5% |
顧客等からの著しい迷惑行為 | 27.9% | 63.7% | 8.4% |
就活等セクハラ | 0.7% | 94.5% | 4.8% |
出典:令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要|厚生労働省
また、企業にはハラスメント防止措置を講じる義務が定められています。
ハラスメントの認定には受け手の主観だけでなく、第三者の視点から社会通念上適切かどうかも重要です。企業と働く人がともに理解を深め、組織全体で予防と対策に取り組むことが求められます。
パワーハラスメントの6つの型とは
パワーハラスメントは働く人の尊厳を傷つけ、働きづらさや離職の原因にもなります。厚生労働省では、「パワハラ防止指針」において、パワハラを6つの型に分類しています。
分類 | 内容例 |
---|---|
身体的な攻撃 | 殴る、蹴るなどの暴行 |
精神的な攻撃 | 脅迫、暴言、人格否定の発言 |
人間関係からの切り離し | 無視、隔離、仲間外し |
過大な要求 | 達成不可能な仕事を押し付ける |
過小な要求 | 能力に見合わない単純作業ばかりを命じる |
個の侵害 | プライベートの監視、私物の無断撮影・閲覧など |
出典:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して|厚生労働省
厳しい指導とパワハラは異なり、これらの行為が繰り返されることは許されません。安心して働くためにも、自分が受けている行為がパワハラに当たらないか確認することが大切です。
法的に定められたパワーハラスメントの種類
厚生労働省の「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」によると、下記のハラスメントは法令により定義され、企業に防止措置が義務付けられています。
ハラスメントの種類 | 該当法令 | 定義の要点(法的文言を簡略) |
---|---|---|
パワーハラスメント (パワハラ) | 労働施策総合推進法 第30条の2 | 優越的関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、身体的・精神的苦痛を与える行為 |
セクシュアルハラスメント(セクハラ) | 男女雇用機会均等法 第11条 | 職場における性的言動により、就業環境を害する行為 |
マタニティハラスメント (マタハラ) | 育児・介護休業法 第10条等 | 妊娠・出産・育児を理由とした不利益な取扱い |
社会的に問題視されるハラスメントとの違い
法的に明確な定義がないハラスメントであっても、社会的に強く問題視されているケースがあります。たとえば「アルハラ(飲酒の強要)」「モラハラ(精神的支配や人格否定)」「スメハラ(体臭や香水による不快感)」などです。
これらは現行法での規定はないものの、職場の人間関係やメンタルヘルスに悪影響を及ぼす行為として、多くの企業で就業規則やガイドラインで防止策が定められています。
また、被害を受けても声を上げにくい場合が多いため、職場全体での教育と意識啓発が不可欠です。
【社会的に問題視される主なハラスメントの例】
- アルハラ:飲酒の強制、一気飲みの強要
- モラハラ:人格を否定する発言や無視、言葉による支配
- スメハラ:体臭や香水の強さによる他者への不快感

ハラスメントの種類と特徴
ここでは、代表的なハラスメントの種類やそれぞれの特徴について解説します。ハラスメントにはさまざまな種類があり、加害者と被害者の関係性や状況によって分類されます。
それぞれの特徴を理解することで、予防や適切な対応につながります。法令で定義されたものもあれば、社会的に問題視される段階のものもあるため、分類と背景を把握しておくことが重要です。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)は、職場での優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為です。
労働施策総合推進法により企業に防止措置の義務が課されています。
出典:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)| 厚生労働省
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、職場において性的な言動により労働者に不利益を与えたり、就業環境を害する行為です。
厚生労働省は、セクハラを「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2類型に分類しています。対価型セクハラは、性的言動を拒否したことによる降格や減給などの不利益処分があるケースです。
また、環境型セクハラは、性的な発言や画像の掲示などによって職場環境が悪化するものです。たとえば、身体的な接触、性的な冗談、性的指向への偏見なども該当します。いずれも、被害者の性別や立場にかかわらず問題となります。
マタニティハラスメント(マタハラ)、パタハラ
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠・出産・育児休業等を理由に不利益な扱いを受ける行為です。パタハラは、男性が育児参加や休業を希望した際の嫌がらせを指します。これらは育児・介護休業法により、企業が防止措置を講じる義務があります。
【該当する行為の例】
- 「育休なんて迷惑だ」といった否定的発言
- 休業取得後の不当な異動や降格
- 制度の利用を心理的に妨げる雰囲気づくり
ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラスメントとは、育児や介護などの家庭事情を理由に、職場で不当な扱いや差別的な言動を受ける行為です。
たとえば「また介護?仕事に支障が出る」といった発言が該当します。特に高齢化が進む日本においては、介護と仕事の両立が大きな課題となっています。
【職場で取るべき対策例】
- 介護休業・時短勤務制度の周知
- 上司向けの両立支援研修
- 相談しやすい風土づくりと制度整備
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメントとは、性別や性自認に基づく偏見や差別的な言動を通じて相手に精神的苦痛や不利益を与える行為です。
「女なのに~」「男のくせに~」といった発言のほか、LGBTQ+など多様な性への理解不足による排除や否定も含まれます。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルハラスメントとは、飲酒に関して他者に対して不適切な圧力や期待をかける行為です。
「飲めないのは付き合いが悪い」「断るのは空気が読めていない」といった発言や、イッキ飲みの強要などが含まれます。特に若手や立場の弱い人への行為は深刻な事故にもつながります。
リストラハラスメント(リスハラ)
リストラハラスメントとは、退職や配置転換などを目的に、過剰な圧力や嫌がらせを通じて退職に追い込む行為です。
たとえば、「辞めないと評価を下げる」「仕事を与えない」「社内で孤立させる」などが該当します。
労働契約法においても、退職強要や安全配慮義務違反に該当するおそれがあります。企業には適正な人事運用と通報体制の整備が求められます。

ハラスメントが職場で起こる背景と原因
ハラスメントは、個人の性格や悪意だけでなく、組織文化や価値観の違い、働く環境によっても生じることがあります。
ここでは、ハラスメントが起こりやすい背景や要因について、代表的な例をもとに解説します。
【職場でハラスメントが発生する主な原因】
- 多様な価値観の違いによるすれ違い
- 無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の影響
- 性別役割意識による思い込みと不平等
- ストレスを生みやすい労働環境と職場文化
多様な価値観の違いによるすれ違い
現代の職場は、多様な年齢層、性別、出身地、価値観を持つ人々で構成されています。多様性は組織にとって大きな強みですが、相互理解が不足すると、意図しない言動がハラスメントと受け取られることがあります。
たとえば「今どきの若者は我慢が足りない」「昔はこれが常識だった」といった発言は、世代間の摩擦を引き起こす要因になりかねません。
多様性を前提としたコミュニケーションと相互尊重が、トラブル防止と職場の円滑な関係づくりに不可欠です。
無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の影響
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)とは、個人が自覚せずに持っている先入観や固定観念を指します。たとえば「女性は感情的」「男性は管理職に向いている」といった思い込みが、発言や評価に影響を及ぼすことがあります。
本人に悪意がなくても、こうした偏見に基づく行動がハラスメントと見なされる場合があります。
企業では、研修や自己診断ツールの導入などを通じて、バイアスへの気づきを促す取り組みが進んでいます。多様性を尊重する職場づくりには、まず個人が無意識の偏見に気づくことが重要です。
性別役割意識による思い込みと不平等
性別による固定的な役割分担意識は、ジェンダーハラスメントやキャリア上の不平等につながる恐れがあります。
たとえば「女性は補助業務に向いている」「男性は家庭より仕事を優先すべき」といった思い込みが、人事配置や昇進機会に影響を与えるケースがあります。これは個人の考えだけでなく、職場全体の文化や評価制度にも関係する問題です。
厚生労働省は、性別に関係なく誰もが能力を発揮できる職場環境の整備を企業に求めています。公平な対応を徹底し、性別に基づく無意識の偏見を見直すことが求められます。
ストレスを生みやすい労働環境と職場文化
働きすぎや人員不足、過度な成果主義など、過剰なストレスを伴う職場環境はハラスメントが発生しやすくなるでしょう。とくに以下のような要因が重なると、心理的安全性が失われ、トラブルが顕在化しにくくなります。
【ハラスメントを助長する職場環境の例】
- 長時間労働や休日出勤の常態化
- 人手不足による業務過多
- 「上司の指示は絶対」とする上下関係重視の風土
- ミスを厳しく追及する評価制度
こうした環境では、職場内の発言や行動に不寛容が生まれやすくなります。ハラスメント対策は個人の意識改革だけでなく、組織全体の労働環境改善と風土改革を伴って進めることが効果的です。

ハラスメントが企業に与える影響
ハラスメントは個人間の問題にとどまらず、企業全体に法的・経済的・人的な損失をもたらします。
訴訟や評判リスク、従業員の離職や生産性低下といった影響は、経営に深刻な打撃を与えかねません。
ここでは、ハラスメントが企業に及ぼす主な影響について解説します。
コンプライアンス違反と訴訟リスク
ハラスメントが発覚した場合、企業は労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法などへの違反として、行政指導や是正勧告の対象となる可能性があります。
被害者が民事訴訟を起こせば、損害賠償の支払い義務が生じるケースもあります。とくに、企業側に防止義務や対応義務を怠ったと認定されれば、使用者責任を問われかねません。
こうした法的対応の不備は、組織内の信頼低下や採用活動への悪影響も引き起こします。企業は就業規則の整備や定期的な研修を通じて、コンプライアンス意識の向上と予防的な取り組みを進める必要があります。
企業イメージの毀損とその代償
ハラスメント事案が報道やSNSで広まると、企業イメージの失墜は一気に拡大します。たとえ法的責任を問われなくとも、「対応が遅い」「隠ぺい体質」といった印象が世間に広まり、顧客や取引先の信頼を損なう可能性があります。
とくに一般消費者と接するBtoC業種では、売上減少やブランド価値の低下に直結しやすく、長期的な経営リスクとなります。
また、一度ネット上で拡散された情報は、将来の採用活動や新規取引にも影響を及ぼします。発生後の謝罪や補償だけでなく、日常的な防止策と説明責任が重要です。
従業員のモチベーションと生産性の低下
ハラスメントが見過ごされる職場では、被害者だけでなく周囲の従業員の意欲も低下します。心理的安全性が確保されていない環境では、発言や行動に委縮が生じ、創造性や連携にも悪影響を及ぼします。
また、上司のパワハラや無理解が続けば、信頼関係の崩壊や職場内の分断を引き起こし、組織全体の生産性が下がることもあります。
このような状況は、離職率の上昇や人材の流出にもつながりかねません。従業員が安心して働ける職場づくりは、企業の競争力維持に不可欠です。
休職・退職による人材流出とコスト増
ハラスメントによる精神的ダメージが蓄積すると、被害者の休職や退職に至るケースもあります。そうした人材流出は、企業にさまざまな形でコスト負担をもたらします。
代替要員の確保や育成、業務引き継ぎなどの対応が必要になるだけでなく、知識やスキルの継承が断たれるリスクも高まります。また、労災認定や保険対応といった法的コストが生じる場合もあります。
【人材流出による企業負担の例】
影響内容 | 企業側の具体的負担内容 |
---|---|
休職者の業務カバー | 応援人員の確保、一時的な負荷分散 |
採用・育成コスト | 新人募集・面接・研修などの人事コスト |
業務ノウハウの喪失 | 経験者の退職により品質・効率が一時的に低下する可能性 |
労災・補償対応 | メンタル不調による労災認定、損害補償、保険申請など |
組織の不安定化 | 離職の連鎖による職場士気の低下、管理職の負担増 |
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ハラスメント発生時に企業が取るべき対応
ハラスメントが発生した際、企業は迅速かつ適切な対応を講じなければなりません。対応を怠ると、法的責任の追及や企業イメージの悪化、職場環境の悪循環につながる恐れがあります。
ここでは、調査の進め方、当事者対応、再発防止策について解説します。
関係者への公平な聞き取り調査方法
ハラスメントの事実確認には、関係者への聞き取り調査が不可欠です。調査は中立性と公平性を確保することが大前提であり、担当者には研修を受けた第三者的立場の職員が望まれます。
聞き取りは個別のプライバシーが保たれた環境で実施し、内容は正確に記録し保管します。被害者と加害者の双方に発言の機会を与え、先入観を排して事実関係を客観的に把握する姿勢が求められます。
調査結果は根拠に基づいて文書化し、記録の取り扱いや結果の説明方法にも慎重な配慮が必要です。
当事者への措置と被害者のケア
調査の結果、ハラスメント行為が確認された場合は、企業は速やかに必要な措置を講じる責任があります。加害者には、就業規則に基づく懲戒処分などの対応が求められます。
一方、被害者への支援も不可欠で、業務調整やカウンセリングの提供など、心理的安全性の確保に努めなければなりません。
また、双方が再び接触することがないよう、業務上の配慮も必要です。これらの措置を講じることで、二次被害の防止と職場復帰支援につながります。
加害者・被害者に対する対応の例
対象 | 主な対応内容 |
---|---|
加害者 | 戒告・減給・出勤停止などの懲戒処分(就業規則に基づく) |
被害者 | 配置転換、時短勤務、カウンセリング提供、相談窓口の案内 |
両当事者間 | 接触制限、距離を置いた業務配置などの環境調整 |
再発防止策の策定と定期的な見直し
ハラスメント問題は、個別対応で終わらせるのではなく、再発防止策として組織的な改善へとつなげる必要があります。主な施策としては、ハラスメント禁止を明記した就業規則の整備、匿名相談も可能な窓口の設置、定期的な社内研修の実施、管理職への重点的教育などが有効です。
また、社内アンケートや外部評価を活用して、取り組みの実効性を定期的に検証・見直すことが重要です。継続的な改善活動により、従業員が安心して働ける職場文化が醸成されます。

企業が講じるべきハラスメント防止策
ハラスメントの未然防止には、企業による継続的な取り組みが欠かせません。就業規則の整備に加え、相談体制の構築や従業員教育、職場の現状把握と改善に向けた仕組みが求められます。
ここでは、企業が導入すべき具体的な防止策を解説します。
社内ホットライン(相談窓口)の設置と活用法
ハラスメント対策として、社内にホットライン(相談窓口)を設けることは非常に重要です。相談者が安心して声を上げられる環境を整えることで、早期発見と迅速な対応が可能になります。
ホットラインは社内外両方に設置し、匿名での相談にも対応できる体制が望ましいとされています。担当者には守秘義務と専門知識が求められ、対応は公平・迅速であることが不可欠です。
また、相談内容は記録・分析し、職場環境の改善に役立てることが有効です。制度の周知と定期的な見直しを継続することが、機能の維持につながります。
ハラスメント防止研修の内容と実施のポイント
ハラスメントを防止するには、従業員が正しい知識を持ち、適切な対応方法を理解することが大切です。
企業では、少なくとも年1回の研修を行い、ハラスメントの定義・類型・リスク・相談対応の流れを学ぶ機会を設けることが推奨されています。とくに管理職向けには、通報対応や再発防止策の重要性など、組織的視点を踏まえた内容が必要です。
研修手法は集合研修に限らず、eラーニングや動画配信なども有効です。理解度テストやアンケートを活用することで、研修効果の測定と継続的改善が図れます。
社内アンケート・360度評価の活用方法
ハラスメントの有無や職場環境の課題を把握するには、社内アンケートや360度評価の活用が効果的です。匿名で行うアンケートは、従業員の本音を引き出しやすく、職場の空気感やストレス要因の把握に役立ちます。
また、360度評価では、上司・部下・同僚など複数の立場からの評価が得られるため、個人の行動傾向や管理職の資質を多面的に評価できます。これらの結果を放置せず、組織改善につなげる運用が重要です。
【社内アンケート・360度評価の活用例】
- 匿名アンケートで職場環境やストレス状況を定期把握
- 360度評価で上司・部下・同僚など複数視点からフィードバック
- 結果を可視化し、組織単位・部門単位で分析
- 結果を基に面談・研修・評価制度の見直しを実施

ハラスメントをなくすには何が必要か
ハラスメントを根本的に解消するには、制度整備だけでなく、職場文化や意識の改革が不可欠です。
形式的な対応では限界があるため、企業は組織全体の価値観や働き方を見直し、社員が安心して働ける環境を築く必要があります。ここでは、組織文化の変革と教育の継続的取り組みについて解説します。
組織文化の見直しとリーダーシップの重要性
ハラスメントの発生には、企業の価値観や職場の風土が大きく関わっています。たとえば、上司に意見を言いにくい環境や、ミスを過度に責めるような文化があると、問題が表面化しづらくなります。
職場の心理的安全性を高めるには、管理職や経営層のリーダーシップが鍵となります。自ら率先して模範的な行動を示すことが、組織全体の行動基準や雰囲気を変えていきます。
【ハラスメントを助長しやすい組織文化の例】
- 上司の言動に意見しづらい雰囲気
- ミスを厳しく責める「成果至上主義」
- 忙しさから人間関係のケアが後回しにされている
- 管理職が問題行動を見て見ぬふりする風潮
【望ましい職場文化を育てるリーダーの行動例】
- 部下の声に耳を傾ける(傾聴)
- 意思決定の過程を明確に説明する
- 自身の言動を常に省みる
- ハラスメントに対して毅然と対応する
継続的な教育と意識改革の実施方法
ハラスメント防止には、一度限りの研修ではなく、継続的な教育と意識の定着が必要です。年1回以上の定期研修に加え、eラーニングや事例研究、ロールプレイなどを組み合わせることで、実践的な理解が深まります。
管理職向けには、相談対応や部下への配慮、法的責任などの視点を含めることが重要です。また、社内報やポスター、メルマガなどを活用し、日常的に意識を喚起することも有効です。
教育の目的は「学ばせる」ことではなく、従業員一人ひとりが当事者意識を持つことにあります。

ハラスメントに関する法律と厚生労働省の指針
ハラスメント防止は企業の責任として、法的にも明確に義務化されています。特に労働施策総合推進法の改正により、事業主には具体的な対策が求められるようになりました。
ここでは、企業が取るべき義務と厚生労働省の指針に基づいた実務対応について解説します。
労働施策総合推進法に基づく企業の義務
労働施策総合推進法(令和2年6月施行)により、すべての事業主に以下の防止措置が義務づけられています。
- ハラスメント防止方針の明示(就業規則や社内通知)
- 相談窓口の設置と社内周知(外部委託も可)
- 相談対応時のプライバシー保護
- 適切・迅速な事実確認と対応措置
- 再発防止のための措置(教育・配置転換など)
- 相談者への不利益な取扱いの禁止
上記は努力義務ではなく、法的義務です。違反した場合、行政指導の対象となる可能性があります。
厚生労働省の指針に沿った実務対応とは
厚生労働省は、労働施策総合推進法の施行に伴い、ハラスメント防止措置に関する具体的な指針を示しています。この指針では、事業主が講ずべき措置として、相談窓口の体制整備、従業員への周知・研修、相談対応記録の保管、再発防止の取り組みなどが明記されています。
さらに、相談者・加害者双方のプライバシー保護、相談後の不利益取扱いの禁止も重要なポイントです。企業はこの指針を参考に、職場の実情に応じた対応マニュアルや教育プログラムを整備することが推奨されます。形だけでなく、実効性のある運用が求められます。

海外と日本におけるハラスメント対策の違い
ハラスメント対策は国や文化によって基準や対応方針が異なります。とくにグローバル企業では、日本国内の法令のみならず、各国の法制度や国際的な人権基準に基づく対応が求められます。
ここでは、国際的に求められるハラスメント対策の枠組みと、日本企業が配慮すべきポイントについて解説します。
出典:ビジネスと人権|外務省
出典:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省
グローバル企業に求められる対応基準
ここでは、グローバル企業において重視されるハラスメント対策の基準と、国際的な取り組みの特徴について解説します。
国際的には、ハラスメント対策は企業の人権尊重義務やCSRの一環として扱われており、特に欧米諸国では法的義務として厳格に位置づけられています。CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)とは、企業が法令を守ることにとどまらず、社会や環境に配慮した行動を自発的に行う責任のことです。
たとえば米国ではセクシュアルハラスメントへの対応が法律で義務付けられ、EUでも均等待遇や安全な労働環境の確保が企業責任とされています。
また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に基づき、多国籍企業は全拠点で統一された行動規範やハラスメント防止方針を策定・運用しています。
日本企業においても、国内法にとどまらず、グローバル基準に沿った対策が今後いっそう求められるでしょう。
英語での社内表記や相談窓口の必要性
ここでは、外国籍社員が安心して働ける環境づくりのために必要な英語対応策について解説します。
グローバル化が進むなか、企業は日本語以外の言語を母語とする従業員にも配慮した制度設計が求められています。とくに以下のような英語対応が重要です。
対応策 | 内容・ポイント |
---|---|
就業規則・ハラスメント規程の英語整備 | 外国人社員が自身の権利や対応フローを理解しやすくなる |
英語対応の相談窓口(ホットライン)設置 | 外部機関の利用やバイリンガル担当者の配置も有効 |
多言語対応の社内ポータル・FAQ整備 | 相談方法や制度内容をスムーズに把握できる |
eラーニング・研修動画の英語字幕対応 | 異文化理解やハラスメントの認識を共有しやすくなる |
出典:外国人雇用対策 Employment Policy for Foreign Workers |厚生労働省
出典:知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~ |厚生労働省
こうした取り組みにより、言語の壁を超えたインクルーシブな職場づくりが可能となります。

まとめ
ハラスメントは、働く人の心身に深刻な影響を与える重大な問題です。パワハラ、セクハラ、マタハラなど法的に定義された行為だけでなく、社会的に問題視されるさまざまな嫌がらせも含まれます。
職場で不安を感じたときは、一人で抱え込まず、相談窓口の利用や信頼できる上司・同僚に相談することが大切です。誰もが安心して働ける環境をつくるためには、日々のコミュニケーションで互いを尊重し、声をあげやすい職場づくりが欠かせません。
もし状況が改善されず働き続けることが難しい場合は、転職を検討するのも一つの方法です。転職エージェントを活用すれば、社風や企業文化など実際に働かなければわからない情報を知ったうえで転職先を選べるため、安心して新しい環境で働き始めることができるでしょう。
よくある質問
Q.ハラスメントに該当するかの判断基準とは?
本人の意図ではなく「受け手が不快に感じ、就業環境を害されたか」が判断基準です。
厚生労働省は職場におけるハラスメントにおいて、「優越的な関係に基づく言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害するもの」をパワハラと定義しており、他のハラスメントでも類似の判断が用いられます。受け手の感情や業務への影響が重視されます。
Q.加害者に悪意がなければ問題ない?
加害者の悪意の有無に関係なく、ハラスメントと認定される場合があります。たとえ冗談のつもりでも、相手が精神的苦痛を感じたり、業務に支障が出たりすれば、企業の対応が必要となるケースが多いです。意図よりも「影響」に基づく判断が重要です。
Q.ハラスメントとは何ですか?
ハラスメントとは、職場や社会生活で他人に精神的・身体的苦痛を与える迷惑行為の総称です。性的言動、暴言、無視、嫌がらせなどが該当し、企業には防止措置が義務づけられています。
行為の意図よりも、受け手の被害感情や業務への悪影響が基準になります。
Q.日本の三大ハラスメントは?
日本における三大ハラスメントは、パワハラ(パワーハラスメント)、セクハラ(セクシュアルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)です。厚生労働省はこれらを明確に定義し、企業に防止措置を講じる義務を課しています。
近年はモラルハラスメント(モラハラ)やリモートハラスメント(リモハラ)など、新たな形のハラスメントも注目されています。
Q.ハラスメントの種類はどのくらいありますか?
ハラスメントには多くの種類があり、厚生労働省はパワハラ、セクハラ、マタハラ・パタハラ、ケアハラ、カスタマーハラスメント(カスハラ)、就活ハラスメント(オワハラ)など、6つを重点的に対策すべき主要なハラスメントとして位置付けています。
これら以外にも、モラハラ、アルハラ、リモハラ、ジェンダーハラスメント、エイジハラスメント、ジタハラ、スモハラなど社会的に認知されたハラスメントが多数存在し、30種類以上が確認されています。時代や働き方の変化に伴い、新たなハラスメントも生まれているため注意が必要です。
Q.ハラスメントの12種類は?
ハラスメントには多くの種類がありますが、代表的な12種類として、パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラ、ケアハラ、カスハラ、モラハラ、アルハラ、スメハラ、リモハラ、テクハラ、エイハラが挙げられます。それぞれ内容や対象が異なり、職場や日常生活で問題となるケースも多いです。
厚生労働省では主にパワハラ、セクハラ、マタハラの防止を企業に義務付けています。
Q.一番多いハラスメントは何ですか?
厚生労働省の調査によると、職場で最も多いハラスメントはパワーハラスメント(パワハラ)です。令和5年度の調査では、企業の64.2%が過去3年間にパワハラの相談があったと回答しており、他のハラスメントと比べて最も高い割合となっています。
パワハラは被害者の心身に深刻な影響を与えるだけでなく、職場の生産性低下や離職リスクの増加にもつながるため、早期の対策が求められます。
Q.大きな声で怒鳴ったらパワハラですか?
大きな声で怒鳴る行為は、状況によってパワハラに該当する可能性があります。業務上必要かつ適正な範囲を超え、相手の人格を否定したり恐怖を与えたりする行為は、パワハラに認定されることがあります。
ただし、緊急時の注意喚起など業務遂行上必要な指示の場合は該当しません。指導とハラスメントの境界は「内容」「方法」「頻度」「状況」で判断されるため、感情的な叱責には注意が必要です。

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
