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- 精神疾患や障害をもつ方・そのご家族偏見や差別に悩んでいる方に、スティグマの仕組みや解消へのヒントをわかりやすく解説しています。
- 医療・福祉・教育など支援に関わる方支援者としての理解を深めたい方に最適。 スティグマが与える影響や、現場で活かせる配慮・工夫についても触れています。
- 社会問題や人権に関心のある方なぜスティグマが起こるのか? という背景から、私たち一人ひとりにできることまで、社会的視点で整理しています。

スティグマとは
スティグマとは、特定の属性や状況を持つ人が社会から偏見や差別を受けることを指します。
日常生活では、精神疾患や障害、性的マイノリティなどに対する誤解や偏見がスティグマの例として挙げられます。
こうした現象がどのように現れるのか、具体的なケースを挙げながら詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
スティグマの語源と定義
「スティグマ(stigma)」という言葉は、もともと古代ギリシャ語の「στίγμα(スティグマ)」に由来します。この語は「焼き印」や「刺青」、「身体に刻まれた印」などを意味しています。
かつては、奴隷や犯罪者、社会的に排除された人々に対して、身体に焼き印や傷をつけることで「普通の人々」と区別し、社会的な地位や役割を明確にするためのものでした。
現代社会において「スティグマ」は、単なる身体的な印にとどまらず、社会的・心理的な「烙印」や「偏見」を指す言葉として広く使われています。
つまり、ある個人や集団が社会の中で「普通ではない」「劣っている」「危険である」などと否定的にみなされ、差別や排除の対象となる現象を指します。
スティグマは、外見や身体的特徴、病気や障害、出自や国籍、性的指向、宗教、職業など、さまざまな属性や状況に基づいて生じます。
日常生活で見られるスティグマの例
スティグマは、私たちの日常生活のさまざまな場面に潜んでいます。
ここでは、具体的な例を挙げながら日常生活で見られるスティグマについて解説します。
学校でのスティグマ:いじめやからかい
外見(太っている、痩せている、肌の色、服装など)、家庭環境(片親家庭、経済的困窮)、障害(発達障害、身体障害)などを理由に、子どもがいじめやからかいの対象となることがあります。
これにより、自己肯定感の低下や不登校、精神的な問題を引き起こすことがあります。
職場でのスティグマ:昇進や評価における不公平
性別(女性であること、LGBTQ+であること)、年齢(若すぎる、高齢である)、障害(身体障害、精神障害)などを理由に、昇進や評価の機会が不当に制限されることがあります。
これにより、能力を発揮する機会が奪われたり、職場で孤立したりするケースも少なくありません。
医療現場でのスティグマ:偏見や差別的対応
精神疾患(うつ病、統合失調症など)や感染症(HIV、結核など)を持つ患者に対して、医療従事者や他の患者から偏見や差別的な対応を受けることがあります。
これが原因で、適切な医療を受けられなかったり、治療を避けたりすることもあります。
地域社会でのスティグマ:排除や偏見
外国人や特定の出身地の人々(被差別部落出身者、在日外国人など)に対して、地域社会での排除や偏見が存在する場合があります。
これにより、住居探しや就職、地域活動への参加が困難になることもあります。
スティグマがもたらす影響
スティグマは、当事者の社会参加や心理健康に大きな影響を及ぼす社会的な問題です。
スティグマの対象となった人は、自分自身の存在や価値を否定されるような経験を重ねることで、社会的な孤立を深めたり、自己評価が著しく低下したりする傾向があります。
これは精神的ストレスの増大や、うつ病・不安障害などのメンタルヘルス悪化にもつながります。
また、スティグマによって他者からの理解や支援が得られにくくなるため、経済的な困窮や教育機会の制限、就労の妨げといった現実的な困難も生じます。
特に精神疾患や障害を抱える人々が支援を求めること自体をためらってしまうケースも多く、問題はさらに深刻化します。
さらに、スティグマが強く残る社会では、多様性や違いを受け入れる土壌が育ちにくくなり、社会全体の包容力や創造性が損なわれる恐れもあります。
スティグマへの対処と社会的課題
スティグマをなくすには、個人だけでなく社会全体での意識改革や制度的な取り組みが必要です。教育現場や職場、医療機関での啓発活動、当事者の声を反映した制度づくり、法的な差別禁止など、多方面からの対応が求められます。
また、私たち一人ひとりが「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス:自分では気づかないまま持っている偏見)」に気づき、他者を尊重する姿勢を持つことが、スティグマのない社会への第一歩となります。小さな気づきの積み重ねが、社会を変える力になります。
スティグマの種類と具体例
スティグマには健康・病気・社会的属性などさまざまな種類があり、精神疾患や障害、LGBTQ+など多様な事例が存在します。
分類 | 種類 | 具体例・内容 |
---|---|---|
健康・病気 | 身体障がい者 | ・公共の場で過剰な注目・手助け・同情の視線 ・障害の有無だけで能力判断され進学・就職機会が制限される |
感染症患者 | ・HIV/AIDS、コロナ患者が職場復帰を拒否される ・家族ごと差別される ・不道徳と決めつけられる、地域で噂の対象になる | |
がん患者 | ・「がん=死」「自己管理不足」などの偏見 ・復職・復学時に過度な心配や距離を置かれる ・弱いと見られる不安から病気を隠す | |
精神疾患 | うつ病・不安障害 | ・「気の持ちよう」「怠けている」と誤解される ・「頑張れば治る」と言われ相談が軽視される ・治療や支援の妨げになる |
統合失調症・双極性障害 | ・「危険」「何をするかわからない」という偏見 ・事件報道で危険視される ・周囲から距離を置かれ孤立する | |
精神科通院歴 | ・就職や結婚で不利益を受ける ・履歴書や健康診断で通院歴を問われる ・支援を求めること自体へのハードルが高くなる | |
社会的属性 | LGBTQ+ | ・カミングアウトでいじめ・排除を受ける・就職や住居契約で不利益を受ける ・家族・友人から拒絶される恐れで隠す人も多い |
外国人・移民 | ・「マナーが悪い」「仕事を奪う」などのレッテル ・地域社会で排除、就職・住居探しで差別・言語・文化の違いで学校・職場で孤立 | |
年齢・性別 | ・「高齢者は頑固」「若者は無責任」「女性は管理職に向かない」などの偏見 ・能力や意欲に関わらず社会参加の機会を制限 | |
シングルマザー・ファーザー | ・「子どもがかわいそう」「親がだらしない」という見方 ・本人や子どもが孤立 ・支援を受けにくくなる ・経済的・精神的負担が重なる |
次章では、それぞれのスティグマに関して詳しく解説していきます。
健康・病気に対するスティグマ
病気や障害を持つ人は、誤解や偏見から差別や不利益を受けることがあります。
必要以上の同情や過剰な手助け、誤ったイメージによる排除は、本人の社会参加を妨げる要因になります。
ここでは健康・病気に関するスティグマの具体例を紹介するのでチェックしてみてください。
身体障がい者へのスティグマ
身体障害を持つ人は、公共の場で必要以上に注目されたり、過剰な手助けをされたりすることがあります。
例えば、車椅子利用者が外出した際に、本人が望んでいないのに周囲の人が過剰に手を貸そうとしたり、「かわいそう」といった同情の視線を向けられたりすることがあります。
また、障害の有無だけで能力を判断され、就職や進学の機会が制限されることも少なくありません。
感染症患者へのスティグマ
HIV/AIDSや新型コロナウイルス感染症などの感染症患者は、病気そのものへの誤解や恐怖から、職場復帰を拒否されたり、家族ごと差別されたりすることがあります。
たとえば、HIV感染者が「不道徳な生活をしていた」と決めつけられたり、コロナ感染歴がある人が地域で噂の対象となったりするケースが報告されています。
がん患者へのスティグマ
がん患者に対しては、「がん=死」という誤解や、「がんになったのは自己管理ができていないからだ」といった偏見を持つといった事例も報告されています。
そのため、治療中や治療後の患者が職場や学校に戻る際、周囲が過度に心配したり、逆に距離を置いたりすることがあります。
また、がん患者自身が「弱い」「頼りない」とみなされることを恐れ、病気を隠そうとする場合もあります。
精神疾患に対するスティグマ
精神疾患は外見からわかりにくいため、誤解や偏見の対象となりやすい特徴があります。
正しい理解がないまま、「怠け」「危険」といったレッテルが貼られ、当事者の苦しみが深まることも少なくありません。ここでは具体的な事例を解説します。
うつ病・不安障害へのスティグマ
うつ病や不安障害などの精神疾患は、外見からは分かりにくいため、「気の持ちよう」「怠けているだけ」といった誤解を受けやすいです。
職場や学校で「頑張れば治る」「根性が足りない」と言われたり、相談しても真剣に受け止めてもらえなかったりすることがあります。こうした誤解は、当事者の苦しみを深め、適切な治療や支援を受ける妨げとなります。
統合失調症・双極性障害へのスティグマ
統合失調症や双極性障害などの重度の精神疾患に対しては、「危険」「何をするかわからない」といった根拠のないイメージが広がっています。
ニュースなどで一部の事件が強調されることで、精神疾患を持つ人全体が危険視される傾向があります。その影響で、当事者が周囲から距離を置かれたり、孤立したりすることが少なくありません。
精神科通院歴へのスティグマ
精神科への通院歴があると、就職や結婚などの人生の節目で不利益を被ることがあります。履歴書や健康診断で通院歴を問われたり、結婚相手やその家族から偏見を持たれたりするケースもあります。
このような社会的なスティグマが、精神的なサポートを求めること自体へのハードルを高くしています。
社会的属性に関するスティグマ
性別、年齢、国籍、家族構成など社会的な属性によるスティグマも存在します。
誤った先入観や固定観念により、本人の努力や能力に関係なく不利益を受けることがあるのです。ここでは社会的属性に関するスティグマの事例を紹介します。
LGBTQ+へのスティグマ
性的マイノリティ(LGBTQ+)の人々は、カミングアウトしたことでいじめや排除を受けたり、就職や住居の契約で不利益を被ることがあります。
例えば、職場で性的指向を理由に昇進を妨げられたり、賃貸住宅の契約を断られたりすることが現実に起きています。また、家族や友人から拒絶される恐れがあるため、自分のアイデンティティを隠し続ける人も少なくありません。
外国人・移民へのスティグマ
外国人や移民に対しては、「マナーが悪い」「仕事を奪う」といったレッテルが貼られがちです。地域社会での排除や、就職・住居探しでの差別が報告されています。
また、言語や文化の違いを理由に、学校や職場で孤立することもあります。こうしたスティグマは、多文化共生社会の実現を妨げる大きな要因となっています。
年齢や性別に基づくスティグマ
年齢や性別に関する固定観念も根強いスティグマの一つです。たとえば、「高齢者は頑固」「若者は無責任」「女性は管理職に向かない」といった偏見が職場や家庭、地域社会に残っています。
これらのスティグマは、個人の能力や意欲に関係なく、社会参加の機会を制限する原因となります。
シングルマザーやシングルファーザーへのスティグマ
シングルマザーやシングルファーザーに対しては、「子どもがかわいそう」「親がだらしない」といった否定的な見方がされることがあります。
これにより、本人や子どもが地域社会で孤立したり、支援を受けにくくなったりすることがあります。経済的な困難や精神的な負担が重なる中で、こうしたスティグマはさらなる苦しみをもたらします。
数字で見るスティグマ
スティグマを具体的な数字で見ると、その深刻さがより浮き彫りになります。
精神疾患や障害、認知症、感染症、SNSでの誹謗中傷など、さまざまな場面で差別や偏見が起こり、社会参加や日常生活に大きな影響を与えているのが現状です。
うつ病・精神疾患
厚生労働省の調査によると、日本国内で精神疾患を抱える人は令和5年で603万人です。
うつ病患者がスティグマを感じ、休職や治療をためらって悪化したり、昇進の機会を逃すなどの影響が出ています。
障がい者
内閣府が2022年11月に実施した「障害者に関する世論調査」によると、障害を理由とした差別や偏見が「あると思う」と回答した人は88.5%に上りました(「あると思う」47.5%、「ある程度はあると思う」41.0%の合計)。
また、こうした差別や偏見が5年前と比べて「改善されたと思う」と回答した人は58.9%にとどまり、依然として多くの人が障害を理由とする差別や偏見を身近に感じている現状が示されています。
年齢や都市規模での大きな差はなく、引き続き社会全体で理解促進と環境整備が求められます。
認知症
厚生労働省の令和4年(2022年)推計によると、65歳以上で認知症と推定される高齢者は約443万人に上り、さらに軽度認知障害(MCI)が疑われる人を含めると約559万人となります。合わせると、高齢者全体のおよそ4人に1人以上(約28%)が認知機能に何らかの課題を抱えている計算になります。
将来については、2025年に約472万人、2030年に約523万人、2040年には約584万人、2060年には約645万人へと増加する見込みが示されており、高齢化社会の進展とともに認知症対策の必要性が一層高まっています。
認知症は「何もわからなくなる」「暴言を吐く」といった誤解を受けることが多く、こうした偏見が本人や家族の外出や地域活動の参加をためらわせる要因となっています。
そのため、2024年に施行された認知症基本法のもとで、社会全体での正しい理解促進、早期診断・医療体制の充実、地域での支援体制の整備が急務となっています。
出典:認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計|厚生労働省
出典:資料4 共生社会の実現を推進するための認知症基本法について|厚生労働省
感染症・慢性疾患
HIV感染者は2023年の時点で24,532人います。「感染者は危険」「不道徳」といった誤解や偏見が根強く、職場や学校、医療現場で差別や社会的孤立を経験する人が少なくありません。
※HIVは感染力が弱く、日常生活(握手・プール・咳など)ではうつらない為、学校や職場で隔離する必要はありません。
また、血液を介しての感染や母子感染も考えられます。
参照:令和 5(2023)年エイズ発生動向 – 概 要 –
HIVとエイズ|厚生労働省
そして感染症だけでなく、糖尿病や肥満症でも「自己管理不足」と見なされ、保険加入を断られるなどのケースがあります。
SNS
SNS上で誹謗中傷を経験した人は約3割います。外見などのスティグマによって書き込まれたコメントもあり、学校や職場、友人関係に悪影響が出ることも少なくありません。
参照:<誹謗中傷被害経験の実態調査:2024年版>ネット誹謗中傷を「されたことある」が約3割、3割弱が「個人情報をさらされた」経験あり | 弁護士ドットコム株式会社のプレスリリース
このように、スティグマはさまざまな立場や世代に広がり、社会参加や日常生活に影響が及んでいます。

スティグマがもたらす社会的影響
ここでは、スティグマが個人だけでなく、周囲や社会全体にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを、多角的な視点から解説します。
スティグマが存在することによって生まれる課題や、その背景にある社会的構造についても整理します。
差別と偏見の拡大
スティグマは、社会全体にさまざまな負の影響を及ぼします。まず、スティグマによって特定の個人や集団が否定的にラベリングされることで、差別や偏見が拡大しやすくなります。
このような状況では、当事者がコミュニティから排除されたり、孤立したりすることが多く、社会的なつながりや支援を受ける機会が大きく損なわれます。
また、スティグマは教育や就職、昇進、進学などの機会損失をもたらします。例えば、精神疾患や障害、特定の出自や属性を持つ人々は、社会的な偏見によって正当な評価や機会を得られず、不平等な扱いを受けることが少なくありません。
こうした不平等は、本人の努力や能力とは無関係に、社会的なラベルや先入観によって生じます。
さらに、スティグマは「自分たち」と「その他」という区分を強調し、社会的分断を生み出します。多様な価値観や背景を持つ人々が排除されることで、社会全体の多様性や包摂性が損なわれ、集団間の対立や不信感が強まります。スティグマは社会的結束を弱め、孤立や排除を助長する要因となるのです。
当事者への心理的影響
スティグマの影響は、社会的側面だけでなく、当事者の心理や健康にも深刻な悪影響を及ぼします。スティグマにさらされた人は、自己肯定感が低下しやすく、「自分には価値がない」「社会に受け入れられない」と感じる傾向が強まります。
その結果、社会的孤立や引きこもりを招きます。周囲の目や偏見を気にして外出や人付き合いを避けるようになり、結果として孤独感や疎外感が強まります。特に精神疾患や障害を持つ人々は、スティグマによる孤立が回復や社会参加の大きな障壁となっています。
さらに、スティグマは精神的ストレスや健康問題を引き起こす要因にもなります。慢性的なストレスや不安、うつ状態などの二次的な心理的問題が生じやすくなり、時には自殺リスクの増加にもつながります。
また、スティグマを恐れるあまり、医療機関や相談機関へのアクセスをためらい、適切な支援や治療を受ける機会を失うこともあります。これが症状の悪化や社会復帰の遅れを招く悪循環を生み出すのです。
医療・福祉分野における支援コストと課題
スティグマの存在によって精神疾患や障害、特定の属性を持つ人々が支援を求めにくくなり、早期治療や適切な福祉サービスの利用が遅れることがあります。
その結果、医療・福祉分野における支援コストが増加し、長期的には社会保障制度への負担も大きくなります。
また、偏見や差別によって人々が本来持つ力を発揮できずにいる状況は、労働力の損失や生産性の低下にもつながります。
多様な背景や能力を持つ人が互いに認め合い、活躍できる環境が損なわれることで、イノベーション(革新性)や活力が失われ、社会全体の持続的な発展も難しくなります。

【社会的・文化的背景】スティグマを生む原因
ここでは、スティグマがなぜ社会の中で生まれ、広がっていくのかについて考察していきます。
無意識の思い込みや情報の偏り、歴史的な背景など、さまざまな要素が複雑に絡み合う中で、スティグマが形成されていく過程に注目します。
伝統的な価値観や固定観念
スティグマの根底には、長い歴史の中で形成されてきた伝統的な価値観や固定観念が大きく影響しています。
たとえば、「男は強くあるべき」「障害は恥ずかしいもの」「精神疾患は本人の弱さや怠惰の表れ」といった考え方が、無意識のうちに社会全体に浸透しています。
こうした価値観は、家庭や学校、地域社会などで繰り返し伝えられることで、個人の意識や行動に強い影響を与えます。
教育や情報の不足
スティグマが生まれる大きな要因の一つは、正しい知識や情報が社会に十分に行き渡っていないことです。
たとえば、HIV感染者や精神疾患を持つ人々に対するスティグマは、病気や障害についての誤解や無知から生じることが多いです。
教育現場やメディアでの情報発信が不十分な場合、古い偏見や誤ったイメージが温存され、次世代にも引き継がれてしまいます。
宗教や慣習の影響
宗教的な教えや地域の慣習も、スティグマを強化する要素となる場合があります。
たとえば、ある宗教では特定の病気や障害を「罰」や「穢れ」とみなす教義が存在し、その影響で当事者や家族が地域社会から排除されたり、差別を受けたりすることがあります。
また、地域社会ごとに異なる慣習や価値観が、特定の属性を持つ人々に対するスティグマを助長するケースも見られます。
社会構造と権力関係
スティグマは、社会構造や権力関係とも密接に関係しています。
社会的に優位な立場にある集団(健常者、異性愛者、男性など)は、自らの特権を維持するために、マイノリティ(少数派)や弱者に対してスティグマを強化することがあります。
こうした構造的な力関係が、スティグマの再生産や固定化を促進します。
【メディアの影響】スティグマを生む原因
スティグマを生む原因は、社会的・文化的背景だけではなく、メディアの影響もあります。ここでは、メディアの影響に着目して、スティグマが生じる原因について解説します。
誤った情報や偏った報道
現代社会において、メディアは人々の価値観や認識に大きな影響を与えています。
テレビや新聞、インターネットなどで、特定の病気や集団がネガティブに描写されたり、偏った情報が繰り返し報道されたりすることで、スティグマが強化されることがあります。
たとえば、精神疾患を持つ人が犯罪の容疑者として報道される際、「精神疾患のある容疑者」といった表現が強調されることで、「精神疾患=危険」という誤ったイメージが社会に広がります。
センセーショナルな表現
ニュースやドラマ、映画などで、センセーショナルな表現が用いられることも、スティグマの形成に拍車をかけます。
たとえば、事件や事故の報道で「精神疾患」「外国人」「生活保護受給者」などの属性が必要以上に強調されると、視聴者や読者はその属性に対して否定的な印象を持ちやすくなります。
SNSによる拡散
近年では、SNSの普及によって、偏見や差別的な情報が急速に拡散する傾向が強まっています。
個人の体験談や噂話、誤った情報が瞬時に多くの人々に伝わり、スティグマが社会全体に広がるリスクが高まっています。
SNS上での「炎上」や誹謗中傷が、当事者やその家族に深刻な心理的ダメージを与えるケースも少なくありません。
スティグマを減らすための対策と取り組み
ここでは、スティグマに向き合いながら、より包摂的で多様性が尊重される社会を目指すために、私たちができることについて解説します。
個人の意識や行動の変化に加え、教育や制度、社会的な風土づくりなど、さまざまな観点からの取り組みの必要性が語られています。
教育・啓発活動の重要性
スティグマを減らすためには、教育や啓発を通じた社会全体の意識改革が欠かせません。
学校では、多様性やインクルージョンをテーマにした授業を通じて、障害や病気に関する正しい知識を伝えることが重要です。特に精神疾患や発達障害に関しては、誤解や偏見を防ぐため、正確な情報を教材に盛り込む工夫が求められます。
職場では、ダイバーシティ(多様性)やハラスメント防止に関する研修を実施し、従業員一人ひとりが多様な価値観を尊重できる環境づくりが必要です。
地域では当事者の声を聞く講演会や体験イベントが有効です。メディアも重要な役割を果たしており、当事者の体験談や成功例を積極的に発信することで、社会の偏見を和らげることが期待されます。情報の正確な発信と議論の場づくりが、啓発活動には不可欠です。
個人・社会でできる取り組み
取り組みレベル | 具体的な取り組み | 内容 |
---|---|---|
個人レベル | 自己の偏見を見直す | 無意識の偏見や固定観念に気づき、正しい知識を学ぶ姿勢を持つことが大切 |
当事者の声を聴く | スティグマ対象者の体験談を聴くことで理解が深まる。大人の場合、交流や対話が軽減につながる | |
社会レベル | 法整備や制度の充実 | 差別禁止法・障害者差別解消法などの法整備が社会の意識変革を後押し ガイドライン・支援体制の明確化も重要 |
相談窓口やサポート体制の強化 | 安心して相談できる窓口、カウンセリング、ピアサポートグループの充実が孤立感の軽減・社会参加促進につながる | |
多様性を尊重する文化づくり | 違いを認め合い、多様な価値観を持つ人が共に生きる社会を目指す文化を醸成することが根本解決に不可欠 |
まとめ
スティグマは、私たちの身近な社会や日常生活のさまざまな場面に存在し、多くの人々の人生や心に深い影響を与えています。
誤解や偏見によるレッテル貼りは、当事者の自己評価や社会参加の機会を奪い、孤立や不安、さらなる差別を生み出す原因となります。
しかし、スティグマは正しい知識や理解、そして多様性を尊重する意識を広めることで、少しずつ解消していくことができます。
私たち一人ひとりが無意識の偏見に気づき、他者を尊重する行動を心がけることが、スティグマのない社会への第一歩です。誰もが自分らしく安心して暮らせる社会を目指し、できることから始めていきましょう。
よくある質問
Q.スティグマとは 医療での意味は?
スティグマは、医療分野では病気や障害を持つ患者が社会や医療関係者から偏見や差別を受けることを指します。
特に精神疾患や感染症の診断が、患者に対するネガティブな社会的評価や誤解を招き、治療やケアの妨げになる問題として注目されています。
Q.スティグマとは 看護の分野では?
看護の現場では、患者が周囲からの偏見により自尊心を傷つけられ、治療や支援を避ける心理的な影響を意味します。
看護師はこうした患者の心理に配慮し、理解を深めることで、安心して療養できる環境作りが求められます。
Q.スティグマ 英語でどう書く?
スティグマは英語で「Stigma」と書きます。
元々は「烙印」を意味する言葉で、現代では社会的な汚名や差別的レッテルとして用いられています。病気や障害に対する偏見の象徴的表現として使われることが多いです。
Q.スティグマとは 例を教えて?
例えば、精神疾患のある人が「危険人物」と誤解され避けられたり、HIV陽性者が就職や社会参加を制限されたりすることがスティグマの具体例です。
Q.スティグマとは 福祉の分野でどう使われる?
福祉分野では、障がい者や生活保護受給者などが「怠け者」や「社会の負担」と見なされるなど、不当な評価や差別を受けることを指します。
これにより、支援やサービスの利用が困難になる問題が生じています。
Q.スティグマの使い方を教えて?
「精神疾患に対するスティグマが根強い」「障がい者へのスティグマをなくす」など、偏見や差別を指摘する際に用いられます。
社会の理解不足や無理解によるネガティブな評価を表現する言葉として使われます。
Q.スティグマと烙印の関係は?
スティグマはラテン語で「烙印」を意味し、古代には犯罪者や奴隷に押された印でした。
現代では、社会的に差別や偏見を受けるネガティブなレッテルとしての意味に変化し、精神疾患や障害への偏見を表します。
Q.セルフスティグマとは?
セルフスティグマは、社会からの偏見を自分自身に内面化し、自尊心を傷つけたり自信を失ったりする状態です。
当事者が自分を否定的に捉え、社会参加を避ける傾向が強まり、支援や理解が重要視されています。

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
