介護

ビジネスケアラーとは?問題点や企業への影響について経済産業省ガイドラインを基に解説

笑顔で高齢女性の肩を抱く女性

「介護と仕事の両立が難しくなってきた…」「最近、部下が介護で休むことが増えた」といった不安や悩みを感じている人も多いのではないでしょうか。

近年、働きながら家族の介護を担う“ビジネスケアラー”の存在が注目されています。

高齢化が進む日本において、もはや他人事ではないこの課題。企業にとっても、生産性の低下や人材流出などのリスクにつながります。


本記事では、経済産業省のガイドラインをもとに、ビジネスケアラーの定義や抱える問題、企業への影響について解説します。そして今できる具体的な対策もまとめたのでぜひチェックしてみてください。

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ビジネスケアラーとは?経済産業省のガイドラインを基に解説

超高齢化社会の進行とともに、仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」が増加しています。ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族などの介護を担う人々を指し、ワーキングケアラーとも呼ばれます。

彼らの存在は、企業や社会にとって労働力の維持や多様な働き方の実現、持続可能な社会づくりに不可欠な役割を果たしています。

ビジネスケアラーの定義

ビジネスケアラーとは、主に企業や組織に勤めながら、家族や親族などの介護を担う人々を指します。この「仕事(ビジネス)」と「介護(ケア)」の両立は、今や日本の社会構造において非常に大きな課題となっています。

経済産業省が公表した『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』によると、就業構造基本調査における有業者のうち「仕事が主な者」そして「仕事をしながら介護に従事する者」をビジネスケアラーとして定義しています。

ビジネスケアラーは、自分の親や配偶者、場合によっては兄弟姉妹や祖父母の介護を日常的に行いながら、企業で働き続ける立場にあります。

そのため、従来の働き方や職場環境では対応しきれないさまざまな困難に直面することが増えています。

ワーキングケアラーとの違い

「ビジネスケアラー」と「ワーキングケアラー」は、どちらも仕事と介護の両立を意味する言葉ですが、使われる文脈やニュアンスに違いがあります。

ワーキングケアラーは、より広い意味で「働きながら介護をしている人」全般を指すことが多く、自営業者や非正規雇用者、フリーランスなども含まれます。

一方、ビジネスケアラーは、企業や組織に雇用されている従業員が中心となり、企業側がどのように支援すべきかという視点が強調される傾向があります。

つまり、ビジネスケアラーはワーキングケアラーの一部であり、特に企業が支援対象として認識すべき層を指す場合が多いです。

ビジネスケアラーが増加している背景

ビジネスケアラーの増加には、いくつかの社会的背景が大きく影響しています。まず、少子高齢化の進行により、介護を必要とする高齢者の数が増加しています。

加えて、共働き世帯の増加や核家族化の進展によって、家族内での介護負担が特定の個人に集中しやすくなっています。

さらに、医療技術の進歩により平均寿命が延び、介護期間が長期化していることも一因です。

経済産業省の推計によれば、2030年には家族を介護している人のうち約318万人がビジネスケアラーになると見込まれており、今後もその数は増加傾向が続くと考えられます。

出典:経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」(p.7 ビジネスケアラーに関する将来推計)

ビジネスケアラーの社会的意義

ビジネスケアラーの存在は、社会全体にとって非常に重要な意味を持ちます。

まず、企業にとっては労働力の維持や人材の定着、離職防止という観点で、ビジネスケアラーが安心して働き続けられる環境を整えることは、経験豊富な人材の流出を防ぎ、企業の生産性向上にも寄与します。

また、多様な働き方や柔軟な働き方の実現は、すべての従業員にとって働きやすい職場づくりに直結します。社会的には、介護離職者の減少による経済的損失の抑制や、持続可能な社会の実現にも大きく貢献します。

さらに、ビジネスケアラー支援は、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)の推進にも不可欠な要素であり、今後の日本社会を考える上で重要な課題となっています。

画面にグラフが表示されたタブレット
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ビジネスケアラーの現状・人数や割合

ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立を迫られる人が増加している日本の社会課題を象徴しています。今後もビジネスケアラーの数は増え続けると予測されており、企業や社会全体に大きな影響を与えることが予想されます。


ここでは、ビジネスケアラーの現状と直面する日常、産業・職種ごとの傾向について詳しく解説します。

ビジネスケアラーの人数と将来予測

ビジネスケアラーの数は年々増加傾向にあり、2025年には家族を介護する人が約795万人、そのうち約4割(307万人)がビジネスケアラーと推計されています。経済産業省のデータによると、2020年時点で262万人、2030年には318万人まで増加する見込みです。

出典:経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」(p.7 ビジネスケアラーに関連する指標の推移)

ビジネスケアラーの増加は、団塊の世代が2025年に75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」と密接に関連しています。

高齢化率は2023年時点で29.1%に達し、今後も上昇が続くため、介護を必要とする高齢者が増え、その家族が仕事と介護を両立せざるを得ない状況が拡大しています。

年齢・性別ごとの特徴

ビジネスケアラーの年代別分布を見ると、50~54歳が最も多く、この年齢層の約15%が該当すると試算されています。

また、40代後半から急増し、45~59歳の働き盛り世代が全体の半数以上を占めています。たとえば、経済産業省の「令和4年就業構造基本調査」によると、40~59歳のビジネスケアラーは212万人を超え、全体の58.1%に達しています。

出典:SOMPO ビジネスケアラーの対象像と介護頻度の関連

出典:経済産業省 | 令和4年就業構造基本調査(p.33)

性別では女性の割合がやや高い傾向がありますが、男性も無視できない規模で増加しています。

以前は「女性が主に介護を担う」というイメージが強かったものの、共働き世帯の増加や家族形態の変化により、男性ビジネスケアラーも増えています。

また、正規雇用者に多く見られ、企業の中核を担う世代が特に影響を受けやすい状況です。

ビジネスケアラーが抱える日常

ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立に日々大きな負担を感じています。介護の頻度は人によって異なりますが、週6日以上介護を行っている人も全体の約1割に上ります。一方で、週1日以下や月3日以下の低頻度介護者も多く、介護の形態は多様です。

日常的には、介護のために急な休暇や早退が必要になることが多く、業務効率や生産性の低下を招きやすいです。

また、介護はプライベートな問題として周囲に相談しにくく、職場での孤立や精神的なストレスを抱えやすい傾向があります。

昇進や評価への影響を恐れて、職場に事情を打ち明けられない人も少なくありません。さらに、介護による疲労や睡眠不足が続き、体調を崩すケースも多いです。


出典:SOMPO | ビジネスケアラーの対象像と介護頻度の関連

産業や職種によってもビジネスケアラーの現状は異なります。特に営業職や外回りが多い職種では、デスクワーク中心の職種に比べて柔軟な働き方が難しく、介護と仕事の両立がより困難になりやすいです。

一方で、リモートワークや在宅勤務が可能な職種では、介護と仕事の両立がしやすい場合もあります。

企業規模や業種によっても支援体制の整備状況には差があり、大企業や一部の業界では介護休業制度や相談窓口が整っている一方、中小企業や人手不足の業界では十分な支援が行き届いていないケースも見られます。

また、サービス業や製造業、事務職など幅広い職種でビジネスケアラーが存在しており、どの業界・職種でも対応が求められています。

パソコンを操作する女性の手元
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ビジネスケアラーが直面する問題点

ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立を強いられる中で多くの困難に直面しています。

身体的・精神的な負担や仕事への意欲低下、生産性の低下、さらには介護離職による経済損失など、個人・企業・社会全体に深刻な影響を与える問題が山積しています。制度利用のハードルや情報不足も大きな課題です。

身体的・精神的な負担

ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立を強いられる中で、身体的にも精神的にも大きな負担を抱えています。

介護には食事や入浴、移動の補助など、体力を消耗する作業が多く、長時間の介護は睡眠不足や慢性的な疲労につながりやすいです。

また、家族の健康状態や将来を常に気にかける必要があり、精神的なストレスも蓄積しやすい状況です。特に認知症や要介護度が高い家族を介護する場合には、夜間の対応や突発的な事故への対応など、24時間体制で緊張を強いられるケースも珍しくありません。

こうした負担が重なると、ビジネスケアラー自身の健康状態が悪化しやすく、うつ症状や不安障害、慢性疲労症候群などを発症するリスクも高まります。

さらに、介護によるストレスが家庭内の人間関係を悪化させたり、家族間のトラブルに発展したりすることもあります。中には、自身の体調不良や心の不調を我慢し続け、周囲に相談できないまま孤立してしまう人も少なくありません。

仕事への意欲低下と生産性の低下

ビジネスケアラーは、介護による疲労やストレスが原因で、仕事への意欲や生産性が低下しやすい傾向があります。

経済産業省の調査によると、ビジネスケアラーの約3割が「自身の仕事のパフォーマンスが低下している」と回答しており、平均で27.5%程度のパフォーマンス低下が確認されています。

出典:令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査)

この低下は、集中力の欠如や業務効率の低下、ミスの増加などとして現れやすく、単なるモチベーションの問題にとどまらず、企業全体の生産性にも影響を及ぼします。

また、介護のために急な休暇や早退、遅刻が必要になることも多く、周囲の同僚や上司に迷惑をかけるのではないかという不安や罪悪感を抱きやすいです。

その結果、昇進やキャリアアップを諦めたり、重要なプロジェクトへの参加を遠慮したりするケースも見られます。このような状況は、自身のキャリア形成を阻害するだけでなく、企業にとっても貴重な人材の能力を十分に発揮できないという損失につながっています。

介護離職と経済的損失

仕事と介護の両立が困難になると、最終的には介護を理由に仕事を辞めざるを得ない「介護離職」を選ぶ人も少なくありません。

介護離職は、企業にとって経験豊富な人材の喪失につながり、社会的にも大きな経済損失をもたらします。

経済産業省の試算によると、ビジネスケアラーによる労働生産性の低下や介護離職による経済損失は、2030年には約9兆円に達するとされています。

出典:仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン

このうち、労働生産性の低下による損失が約8兆円と大部分を占めており、介護離職による損失も約1兆円と無視できない規模です。

また、介護離職者は毎年約10万人を数えており、企業にとっては代替人材の採用や育成コストも大きな負担となります。

さらに、介護離職によって失われるのは単なる労働力だけでなく、企業が長年かけて育ててきたスキルやノウハウ、組織内のネットワークなど、無形の資産も含まれます。こうした損失は、企業の競争力や成長力の低下にも直結し、社会全体の経済成長にも悪影響を及ぼします。

制度利用のハードルと情報不足

ビジネスケアラーが利用できる介護休業や介護休暇などの制度は存在しますが、実際に利用するには多くのハードルがあります。

まず、制度内容が十分に周知されておらず、ビジネスケアラー自身がどのような支援を受けられるのかを知らないケースが多いです。また、申請手続きが煩雑であったり、職場での理解が得られにくかったりするため、制度を利用しきれていない実態があります。

さらに、介護に関する相談窓口が身近にない、情報が得にくいといった情報不足も深刻な問題です。中には、制度を利用することで職場での評価が下がるのではないか、同僚や上司に迷惑をかけるのではないかと不安を感じ、相談や申請をためらう人も少なくありません。こうした状況が、ビジネスケアラーを孤立させ、さらなる負担を増やす要因となっています。

また、企業側も介護離職の防止には注力してきたものの、ビジネスケアラーのパフォーマンス低下やキャリア形成への不安には十分な対応がなされてこなかったという指摘もあります。そのため、ビジネスケアラー自身が「仕事と介護の両立は自助努力で行うもの」と感じ、職場で相談しづらい雰囲気が広がっているのも現状です。今後は、企業や社会全体で制度利用のハードルを下げ、安心して働き続けられる環境づくりが求められています。

いたわりや寄り添いの気持ちを表現したハートのイラスト
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ビジネスケアラーの人数増加による企業への影響

ビジネスケアラーの増加は、企業にとって重要な経営課題となっています。

経験豊富な人材の離職や労働力不足、生産性低下、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への影響など、企業が直面するリスクは多岐にわたります。


ここでは、ビジネスケアラーが企業にもたらす影響と、対応策の必要性について詳しく解説します。

経験豊富な人材の離職リスク

ビジネスケアラーは、企業の中核を担う40~50代の従業員に多く見られます。これらの世代は、長年の職務経験や専門知識を有し、組織の要となる存在です。

しかし、介護と仕事の両立が困難な場合、キャリアの中断や離職を選ばざるを得なくなるケースが少なくありません。

経験豊富な人材の離職は、企業にとって大きな損失です。特に中小企業や地方の企業では、代替人材の確保が難しく、離職が経営に直結するリスクとなります。

また、離職した従業員が持っていたノウハウや顧客ネットワークなどの無形資産も失われるため、企業の競争力低下やサービスの質の低下にもつながります。

労働力不足と生産性低下

ビジネスケアラーの増加は、労働力不足と生産性低下を加速させる要因となっています。介護による身体的・精神的負担から、ビジネスケアラーは集中力やパフォーマンスの低下を経験しやすく、仕事の効率が落ちることが多いです。

経済産業省の試算によると、2030年のビジネスケアラーによる経済損失は約9兆円に達し、その大半が労働生産性の低下によるものです。

出典:経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」(2030年における経済損失(億円)の推計)

企業規模ごとに換算すると、大企業では年間6億円超、中小企業でも数百万円規模の損失が発生する可能性があります。

出典:経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」(特定の業種・企業規模における仕事と介護両立困難に関連した年間経済損失試算)

さらに、介護離職や労働時間の減少によって、企業は必要な人員を確保できず、業務の遅延やサービスの低下、新規プロジェクトの頓挫など、経営上のさまざまな課題に直面します。

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への影響

ビジネスケアラー問題は、企業のDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進にも大きな影響を与えます。

特に女性や中高年層の従業員が介護を担うケースが多いため、これらの人材が離職したりキャリア形成を諦めたりすることで、多様な人材の活躍機会が失われます。

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の観点からは、ビジネスケアラーが安心して働き続けられる環境を整えることが、企業の持続的な成長や社会的な評価向上につながります。

介護によるキャリア中断や昇進機会の喪失を防ぐことで、多様なバックグラウンドを持つ従業員の活躍を促進し、企業のイノベーション力や競争力の強化にも寄与します。

経営課題としてのビジネスケアラー問題

ビジネスケアラー問題は、もはや従業員個人の問題ではなく、企業の経営課題として認識されるべきものです。労働力不足や生産性低下、経験豊富な人材の喪失は、企業の持続的な成長や存続に直結する重要な課題です。

企業にとっては、ビジネスケアラーが安心して働き続けられるよう、柔軟な勤務形態や介護休業・介護休暇制度の周知、相談しやすい職場環境の整備など、総合的な支援策の導入が求められます。また、経営層の意識改革や、ビジネスケアラー支援に関する社内教育の徹底も不可欠です。

これらの取り組みは、人材の定着や生産性維持、企業価値の向上につながるだけでなく、社会全体の持続可能性にも貢献します。今後は、ビジネスケアラー支援をリスクマネジメントや経営戦略の一環として位置づけ、積極的に取り組むことが求められています。

フレッシュな印象の若手スタッフたち
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企業が求められるビジネスケアラーに対する支援策

ビジネスケアラーが安心して働き続けられるためには、企業の積極的な支援策が不可欠です。

柔軟な勤務形態の導入や制度の周知、相談しやすい職場環境の整備、そして経営層の意識改革など、多角的なアプローチが求められています。


ここでは、企業が今すぐ取り組むべき具体的な支援策について詳しく解説します。

柔軟な勤務形態の導入

ビジネスケアラーが仕事と介護を両立できるよう、柔軟な勤務形態の導入が最も重要な支援策の一つです。

具体的には、時短勤務やフレックスタイム制、テレワーク(在宅勤務)など、従業員の状況に応じて働き方を選択できる制度の整備が求められます。

柔軟な勤務形態を導入することで、介護のための時間を確保しやすくなり、仕事と介護のバランスを取りやすくなります。

また、急な介護対応が必要な場合でも、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。

企業にとっては、人材の定着や生産性の維持、離職防止にもつながるため、経営戦略の一環として位置付けることが重要です。

制度の周知と情報提供

ビジネスケアラーが利用できる介護休業や介護休暇、短時間勤務制度などの支援制度は、企業が積極的に周知する必要があります。

制度の内容や申請方法、利用条件などを従業員に分かりやすく伝え、必要に応じて社内報やイントラネット、説明会などを活用して情報提供を行うことが重要です。

特に、管理職や同僚にも制度の内容を理解してもらうことで、ビジネスケアラーが安心して制度を利用できる環境が整います。

また、制度の利用事例や成功事例を共有することで、他の従業員の理解も深まり、職場全体の意識向上にもつながります。

相談しやすい職場環境の整備

ビジネスケアラーが抱える悩みや不安を気軽に相談できる環境を整えることも、企業に求められる重要な支援策です。

具体的には、専門の相談窓口を設置したり、産業医や社内カウンセラーによるサポート体制を強化したりすることが挙げられます。

また、管理職や人事部門が積極的に声をかけ、従業員の状況を把握しやすい雰囲気を作ることも大切です。相談しやすい環境が整うことで、ビジネスケアラーは孤立感やストレスを軽減し、仕事と介護の両立に前向きに取り組むことができます。

経営層の意識改革

ビジネスケアラー支援を推進するためには、経営層や管理職の意識改革が不可欠です。これまで介護は「個人の問題」と捉えられがちでしたが、今後は「企業の経営課題」として認識し、積極的に取り組む姿勢が求められます。

経営層がビジネスケアラー支援の重要性を理解し、社内全体に方針を浸透させることで、制度の活用や柔軟な働き方の導入が進みやすくなります。

また、管理職向けの研修や勉強会を実施し、ビジネスケアラー支援の意義や具体的な対応方法を学ぶ機会を設けることも効果的です。

経営層の意識改革は、企業全体の風土や働き方改革にも大きな影響を与え、多様な人材が活躍できる職場づくりにもつながります。

今後は、ビジネスケアラー支援を経営戦略の一環として位置付け、積極的に取り組むことが企業の成長や競争力強化の鍵となります。

親身に対応する経験豊富な女性相談員
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ビジネスケアラーに関する制度・法律の整備と活用

ビジネスケアラーが仕事と介護を両立しやすくするためには、制度や法律の整備とその活用が不可欠です。

介護休業や介護休暇制度の概要、利用促進のための社内施策、外部サービスとの連携、そして実際の制度利用の現状と課題について、企業や社会がどのように対応すべきかを詳しく解説します。

介護休業・介護休暇制度の概要

制度名

概要

ポイント

介護休業

家族の介護のために通算93日まで休業可能。最大3回まで分割取得ができる制度。

一時的に介護が集中する時期や体制整備のために利用される

介護休暇

半日単位で取得可能な休暇制度。日常的な介護ニーズに対応する。

2025年4月改正により、雇用期間6ヵ月未満の労働者も原則利用可能に

改正のポイント

育児・介護休業法の改正(2025年4月)で介護休暇の対象が拡大。

多様な雇用形態に対応し、取得のハードルが低下

その他の制度

残業免除、短時間勤務制度などを組み合わせることで、働きながらの介護負担を軽減可能。

柔軟な働き方の支援により、離職防止や仕事との両立がしやすくなる

利用促進のための社内施策

施策項目

内容

目的・効果

制度の周知徹底

厚労省・経産省のガイドラインを活用し、社内報・イントラ・説明会などで制度内容・申請方法を周知。

従業員が制度を正しく理解し、必要時に迷わず利用できるようにする

管理職・人事の理解促進

管理職・人事が制度の趣旨や利用方法を学び、相談しやすい職場環境を整える。

部署内での支援体制が強化され、制度利用の心理的ハードルが下がる

事例の共有

実際の制度利用者の声や成功事例を社内で紹介・共有。

利用への不安を軽減し、職場全体の意識や理解を高める

外部サービスとの連携

施策項目

内容

目的・効果

制度の周知徹底

厚労省・経産省のガイドラインを活用し、社内報・イントラ・説明会などで制度内容・申請方法を周知。

従業員が制度を正しく理解し、必要時に迷わず利用できるようにする

管理職・人事の理解促進

管理職・人事が制度の趣旨や利用方法を学び、相談しやすい職場環境を整える。

部署内での支援体制が強化され、制度利用の心理的ハードルが下がる

事例の共有

実際の制度利用者の声や成功事例を社内で紹介・共有。

利用への不安を軽減し、職場全体の意識や理解を高める

制度利用実態と課題

項目

内容

補足・背景

制度の利用率

介護をしている雇用者のうち、制度利用は全体で11.6%にとどまる。内訳:介護休業1.6%、短時間勤務2.3%、介護休暇4.5%。

出典:厚生労働省「仕事と介護の両立に関する実態調査(2022年)」より。

正規・非正規の差

正規雇用者のほうが制度を利用しやすい傾向あり。

雇用形態により情報取得や申請への心理的ハードルに差があると推察される。

利用促進の障壁

制度の認知不足、職場での利用しにくさ、申請手続きの煩雑さなどが障壁。

管理職や同僚の理解不足、休業取得後の業務復帰不安も要因となる。

今後の対応

制度周知の徹底、職場環境の整備、外部支援との連携によって制度利用の促進を図る必要あり。

企業・行政・地域の連携による包括的な支援体制がカギ。

パソコンの横でコーヒーブレイクする様子
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【先進事例】ビジネスケアラーへの支援

ビジネスケアラー支援の先進事例は、大企業から中小企業、自治体・団体まで幅広く見られます。


実際の取り組みや工夫、連携事例を通じて、企業や社会がどのようにビジネスケアラーを支えているかを紹介します。今後もさらなる支援体制の強化と課題解決が求められています。

大企業の取り組み事例

ビジネスケアラー支援においては、大企業が先進的な取り組みを進めています。

業界を超えた連携や、個別相談体制の整備、AIの活用など、多様な手法で従業員の両立支援を強化しています。ここではその具体事例を紹介します。

業界横断型コンソーシアムの活動

大手企業21社が実践知を共有し、制度導入だけでなく、支援文化の醸成やマネジメント層の育成、組織変革などを推進しています。例えば、業界横断型コンソーシアム「エクセレント・ケア・カンパニー・クラブ」では、企業実務担当者が「本当に必要な支援」を発表し、実効性ある取り組みのヒントを提供しています。

個別相談や専門家による支援

株式会社小松製作所(コマツ)は、専門家による個別相談会を月2回実施し、介護や育児のダブルケアにも対応。早期相談により「離職を思いとどまった」という声が寄せられています。

AIやICTの活用


2025年夏からは、AIを用いた相談・両立アクション支援サービスもリリース予定で、低コストかつ個別性のある相談対応が実現しています。

中小企業の工夫

リソースに限りのある中小企業でも、従業員の多様な事情に寄り添う柔軟な工夫が見られます。

制度の細やかな設計や外部サービスの活用、現場の声を活かした取り組みによって、働きやすい職場環境づくりを実現しています。

柔軟な勤務制度の導入

ミニメイド・サービス株式会社では、パートスタッフが多く、介護や育児がある社員が働きやすいよう、有給休暇を1時間単位で取得できる制度を導入しました。

外部相談窓口の設置

「もしもし相談室」などの外部相談窓口を設置し、介護や育児、金銭面など幅広い悩みに対応。若い世代にも安心感を与えています。

アンケートによるニーズ把握

毎年自由記述式のアンケートを実施し、社員の意見を反映した職場環境づくりに取り組んでいます。

自治体・団体との連携

ビジネスケアラー支援を企業単独で完結させるのは困難であり、自治体や地域団体との連携が重要です。

地域資源や専門知識を活かしながら、情報提供・相談体制・研修機会を整備することで、従業員の負担軽減と早期対応が可能になります。

地域包括支援センターとの連携

企業は地域包括支援センターや介護サービス事業者と連携し、従業員が介護に関する情報やサポートを容易に得られる仕組みを整備しています。

セミナーや研修の実施

自治体や団体と協力し、介護への理解を深めるセミナーや研修を開催。従業員の意識向上や早期相談の促進につながっています。

相談・両立アクション支援サービスの活用

自治体や団体が提供する相談窓口やAI活用サービスを活用し、属人的でないフラットな情報提供を実現しています。

今後の展望と課題

団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、ビジネスケアラーの急増が懸念される中、企業には新たな支援の在り方が問われています。

ここでは、今後の展望と乗り越えるべき課題について整理します。

2025年問題への対応

団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年以降、ビジネスケアラーの増加が予想され、企業による支援体制の強化が不可欠です。

柔軟性と創造性の求められるサポート

社員一人ひとりのニーズが異なるため、柔軟かつ創造的なサポートが求められています。

制度の周知と利用促進

制度の認知不足や利用しにくさが課題であり、今後は制度の周知徹底や利用しやすい職場環境の整備、外部サービスとの連携強化などが重要です。

AIやICTのさらなる活用


AIやICTを活用した相談・支援サービスの拡充により、低コストかつ個別性のある支援が今後も期待されます。

虫眼鏡を使用している女性
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まとめ

ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立を強いられる現代社会の重要な存在です。少子高齢化や共働き世帯の増加により、今後もビジネスケアラーの数は増加し、企業や社会全体に大きな影響を与えることが予想されます。

ビジネスケアラーが直面する問題には、身体的・精神的な負担、仕事への意欲や生産性の低下、介護離職による経済損失、制度利用のハードルや情報不足などがあり、これらは個人だけでなく企業や社会全体の課題でもあります。

企業には、柔軟な勤務形態の導入や制度の周知、相談しやすい職場環境の整備、経営層の意識改革など、多角的な支援策が求められます。

また、介護休業・介護休暇制度の活用や外部サービスとの連携、先進事例の共有を通じて、ビジネスケアラーが安心して働き続けられる環境づくりが進んでいます。

今後は、制度の周知徹底や利用しやすい職場環境の整備、AI・ICTの活用など、さらなる支援体制の強化と課題解決が不可欠です。

ビジネスケアラー支援は、企業の持続的な成長や多様な人材の活躍、社会全体の持続可能性にとって極めて重要です。今後も、企業や社会が一体となって取り組むべき重要なテーマとなっています。

ビジネスケアラーに関する

よくある質問

Q. ビジネスケアラーとはどのような人を指しますか?
A.

ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族などの介護を担う人のことです。企業で働く従業員が中心で、仕事と介護の両立を求められます。

Q.ワーキングケアラーとビジネスケアラーはどう違いますか?
A.

ワーキングケアラーは「働きながら介護をする人全般」を指し、自営業や非正規雇用者も含まれます。ビジネスケアラーは主に企業に勤める従業員を指す場合が多いです。

Q.ビジネスケアラーが利用できる制度にはどんなものがありますか?
A.

介護休業(最大93日)、介護休暇(半日単位)、短時間勤務制度、残業免除などがあります。2025年4月からは雇用期間6ヵ月未満の従業員も原則利用可能になります。

Q.ビジネスケアラーが増えている背景は?
A.

少子高齢化や共働き世帯の増加、核家族化の進行により、仕事と介護を両立する人が増えています。高齢者の増加と介護期間の長期化も影響しています。

Q.ビジネスケアラーが抱える主な問題点は?
A.

身体的・精神的な負担、仕事への意欲や生産性の低下、介護離職による経済損失、制度利用のハードルや情報不足などが挙げられます。

Q.企業はビジネスケアラーに対してどのような支援が求められますか?
A.

柔軟な勤務形態の導入、制度の周知と情報提供、相談しやすい職場環境の整備、経営層の意識改革などが求められます。

Q.ビジネスケアラー支援の先進事例にはどのようなものがありますか?
A.

大企業では専門家による個別相談やAI活用、中小企業では外部相談窓口や柔軟な勤務制度の導入、自治体や団体との連携などがあります。


Q.ビジネスケアラー支援を進める上での今後の課題は?
A.

制度の周知徹底や利用しやすい職場環境の整備、外部サービスとの連携強化、AIやICTを活用した相談・支援サービスの拡充などが今後の課題です。

豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
監修者

海野 和看護師

この記事の監修者情報です

2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。

【保有資格】

日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み

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