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- ユマニチュードについて知りたい人名前は聞いたことあるけど、内容はよく知らない方に。
- 認知症ケアの方法を探している人声かけや関わり方に悩んでいる介護職・看護職の方に。
- 介護で「拒否される」「伝わらない」と感じている人ユマニチュードがその悩みのヒントになるかもしれません。
- 家族介護で優しく接したいと思っている人在宅でもすぐ使えるコミュニケーションのコツを紹介します。
- 研修や資格につながる情報を探している人学び方・研修の受け方・活かし方までしっかり解説します。

ユマニチュードとは?わかりやすく解説
ここでは、ユマニチュードの意味や背景、医療・介護分野における考え方について解説します。
言葉の意味と生まれた背景
ユマニチュード(Humanitude)とは、「人間らしさ」や「人間性」を意味するフランス語 humanitude に由来し、人と人との関わりを大切にするケアの哲学を指します。この概念は、フランスの体育学者であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって開発されました。
出典:ユマニチュードとは|【公式】日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ
両者は高齢者や認知症のある方との接触経験をもとに、相手の尊厳を保ちつつ信頼関係を築くための技法として、ユマニチュードを体系化しました。
特徴的なのは「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱を通じて、人間らしい関係性を築く点にあります。これらはケアを単なる作業としてではなく、人間対人間の行為として捉える実践的アプローチとして注目されています。
哲学的アプローチと看護・介護における位置づけ
ユマニチュードは、単なる介護技術ではなく、人間存在の本質に根ざしたケア哲学とされています。
中心となる考え方は「人は他者との関係性において尊厳を保ち続けられる」というもので、ケアを通じてその尊厳を支える関係性の構築が重視されます。
この手法は、特に認知症のある方へのケアにおいて有用とされる場面が多くあるのも特徴の1つです。たとえば、従来の介助では見られた拒否や戸惑いが和らぐこともあるとされています。
ただし、その効果には個人差があり、状況に応じた丁寧な対応が大切です。ユマニチュードは、ケア提供者自身にとっても、自分の態度や関わり方を見直す契機となる手法であり、業務的な対応を超えた「人と人」としての関係性を築くための土台となるアプローチとされています。

ユマニチュードの目的と考え方
ここでは、ユマニチュードが目指すケアの目的と、その根底にある考え方について解説します。
ユマニチュードは単なる介護技術ではなく、「人間らしさ」や「尊厳」を重視する哲学的アプローチとして、医療・介護現場に広がっています。
「人間らしさ」を尊重するケアとは
ユマニチュードの根本には、「人は最期まで人間らしくあるべきである」という価値観が存在します。
介護や医療の現場では、安全性や効率が優先されるあまり、時にケアを受ける人の意思や感情が軽視される場面も見られます。こうした状況に対し、ユマニチュードでは、ケアを単なる作業とせず、心の通う関係づくりを大切にします。
その実践的な基盤となるのが、「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱です。
- 視線を合わせて信頼感を伝える「見る」
- 穏やかな語りかけを行う「話す」
- やさしく触れることで安心感を与える「触れる」
- 立ち上がることを支援して自立を尊重する「立つ」
これらの行為が、たとえ認知症や身体の不自由があっても、ケアを受ける人が「自分は人間として尊重されている」と感じる土台になります。
「してあげる介護」から「寄り添う支援」へ
従来の介護では、「お世話をしてあげる」という考え方が一般的であり、この発想には、介護する側とされる側との間に無意識の上下関係が生じることが課題として挙げられました。
ユマニチュードは、その関係性を見直し、支援を必要とする人を「ともに生きる存在」として対等に捉えることを重視しています。
たとえば食事や排泄、移動といった日常的な支援においても、本人の意思や生活習慣を尊重し、その人らしさを保つようにすると良いでしょう。この姿勢によって、支援を受ける人が無力感や羞恥心を感じにくくなり、安心して日常を過ごせるようになります。
介護者にとっても、対話や共感を通じて信頼関係が深まることで、精神的なやりがいや自己効力感が高まるとされます。
ケアは一方的に「する」ものではなく、相手とともに「築く」ものであるという考え方が、ユマニチュードの根底にあるのです。
その人の「今」に寄り添うユマニチュードのケア
ユマニチュードでは、ケアを受ける人がどのような状態であっても、「人間としての尊厳」を守ることが何よりも大切とされています。
身体や認知の機能にかかわらず、目の前のその人の存在そのものに向き合い、「今、この瞬間のその人」を尊重する姿勢がユマニチュードの基本にあります。
この考え方において、ケアの目的は単に回復や機能改善を目指すことだけではありません。状態が変化しても、その人が安心して、心穏やかに日々を過ごせることが重要視されます。
たとえば、認知症のある方が言葉で意思を伝えるのが難しくなったとしても、表情や目線、しぐさから気持ちを感じ取り、そこに丁寧に寄り添う関わり方が求められます。
ケアをする側とされる側の関係性
ユマニチュードは、「ケアをする側とされる側」という上下の関係ではなく、「人と人」として対話と共感を積み重ねるプロセスを重視しているのです。
このような実践は、医療・介護の現場において、本人の主体性を尊重し、どのような段階でもその人らしく過ごせる環境づくりにつながるでしょう。
【状態に応じたユマニチュードの支援例】
- 【活動的な時期】自立を促す声かけと歩行支援を組み合わせる
- 【不安や混乱が強い時期】視線・声・手のぬくもりを中心に信頼関係を再構築する
- 【終末期や低覚醒時】語りかけと触れ合いによる穏やかな時間の共有を大切にする
- 【拒否的な反応がある場合】無理に進めず、相手のペースや表情に合わせて調整する

ユマニチュードの4つの柱と技法
ここでは、ユマニチュードの基本的な構成要素である「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱について解説します。
これらは単なる動作や介助技術ではなく、相手の尊厳を守り、人間らしさを支えるための関係性の築き方として体系化されています。
ケアの質を高めるうえで、これらの柱がどのような意味を持ち、どのように実践されるかを理解することが重要です。
「見る」技術と目線が持つ意味
ユマニチュードにおいて「見る」という行為は、単なる視線のやりとりではなく、相手に関心を持ち、尊重していることを伝えるための基本的かつ重要な技術とされています。
目を合わせることで、「あなたの存在を大切に思っています」というメッセージを非言語的に伝えることができ、ケアの第一歩として非常に効果的です。
出典:ユマニチュードとは|【公式】日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ
しかし、目線の角度や距離によっては逆効果となることもあります。たとえば、見下ろすような姿勢や、視線をすぐにそらすような行為は、相手に威圧感や不信感を与える可能性があります。
理想的なのは、視線の高さを相手に合わせ、やわらかな表情で一定時間見つめることです。このようなアイコンタクトは、ケアを受ける人に安心感を与え、信頼関係の土台を築くうえで欠かせません。
【「見る」技術のポイント(例)】
- 視線を合わせて関心を示すことで、「私はあなたに向き合っています」というメッセージが伝わる
- 目線の高さを相手と揃え、見下ろす・見下すような視線は避ける
- 柔らかなまなざしで、適度な時間見つめることで信頼関係のきっかけをつくる
- 急に視線を外さず、落ち着いたアイコンタクトを意識する
- 表情・まばたき・頷きなどの反応を添えると、相手の安心感が高まる
「話す」技術とオートフィードバックの活用
「話す」という行為は、ユマニチュードにおいて、情報を伝えるだけでなく、相手の存在を認め、安心感を与えるための大切なコミュニケーション手段です。
特に注目されるのが「オートフィードバック」と呼ばれる技法で、これは自分が今何をしているのか、次に何をしようとしているのかを相手に分かるように声に出して説明する方法です。
たとえば、「これから右手を拭きますね」「いま椅子に移りますよ」などと伝えることで、ケアを受ける人は自分が何をされるのかを事前に把握でき、恐怖や不安が軽減されます。これは特に、認知機能に不安のある方に対して有効とされています。
話しかけは穏やかな声で、肯定的な言葉を使いながら、ゆっくりと相手の理解に合わせたペースで行うことが推奨されます。このような話し方は、信頼関係の構築や拒否反応の予防にもつながり、ケアの質を高める要素として位置づけられています。
【「話す」技術の基本と活用法(例)】
- 穏やかな声で、肯定的な言葉を選んで話す(命令口調は避ける)
- 相手が理解しやすいよう、ゆっくり丁寧に話しかける
- 「オートフィードバック(自己実況)」を活用し、今の行動やこれからの動作を説明する(例:「これから髪をとかしますね」)
- 自分の行動を声に出すことで、相手に安心感を与え、不安や混乱の軽減につながる
- 話すタイミングと表情を合わせることで、伝わりやすさが向上する
「触れる」技術と安心感を与える接触法
「触れる」ことは、言葉以上に深く相手の心に届く、強力なコミュニケーション手段です。ユマニチュードにおいては、相手の皮膚に対して手のひら全体を使って、やさしく、ゆっくりとした動きで触れることが基本とされています。
このような接触は、安心感や信頼感を生み出し、特に不安を抱えた方や認知症のある方に対しては、拒否や混乱の軽減に効果があるとされています。
一方で、不意に腕をつかむような動作や、冷たい手で触れることは、相手に驚きや恐怖を与えてしまうことがあります。接触の際には、必ず相手の視界に入り、目を見てやさしく声をかけながら行うことが大切です。
触れるタイミングや部位、力加減にも注意を払いながら、相手の反応をよく観察する必要があります。このような接触法は、単なる身体介助にとどまらず、信頼関係の深化にもつながる重要な要素です。
【「触れる」際に心がけたいポイント(例)】
- 手のひら全体を使い、ゆっくりとやさしく触れる(つかむ・強く握るなどの動作は避ける)
- 手は温かくしてから触れる(冷たい手は驚きや不快感を与えることがある)
- 相手の視界に入ってから声をかけ、同時に触れることで不安を和らげる
- スキンシップは信頼関係を築くうえで有効で、特に言葉による理解が難しい相手に効果的
- 状況に応じて、触れる部位やタイミング、接触時間を調整する
「立つ」技術と日常生活への組み込み方
ユマニチュードの「立つ」という技術は、身体機能の維持・回復だけでなく、本人の尊厳や自己決定を支える大切な行為とされています。
立つという動作は、日常生活の中では当たり前に行われているものですが、ケアの現場では、移乗や介助の効率化を重視するあまり、立つ機会が減ってしまうことがあります。しかし、ユマニチュードでは、できる限り生活の中に「立つ」機会を組み込み、自立支援の一環として捉えています。
たとえば、食事の前に椅子から立ち上がる動作をゆっくり行う、トイレに行く際には可能な限り自力での移動をサポートするといった工夫が挙げられます。無理のない範囲で立位を促すことで、下肢筋力やバランス能力の維持にもつながります。
立つことを「支援される動作」から「自分でできる行動」へと意識づけることで、自己効力感が高まり、ケアを受ける人自身の尊厳が保たれやすくなります。こうした考え方は、日常生活の中に自然に取り入れることができ、長期的なQOL(生活の質)の維持・向上にも寄与します。
【「立つ」ことをケアに組み込む工夫(例)】
- 「立つ」は身体機能の維持と、本人の尊厳の保持の両方に関わる行為である
- 食事・排泄・着替えなどの日常動作の中に、自然に立つ機会を取り入れる
- 無理に持ち上げず、声かけや見守りを通じて自立して立てるように支援する
- 数秒間の立位保持でも、筋力・バランス機能の維持に効果がある
- 「立つ=自分の力でできること」という意識づけが、自己肯定感の向上につながる

ユマニチュード導入における5つのステップ
ここでは、ユマニチュードの実践において重要とされる「5つのステップ」について解説します。
これはケアの始まりから終わり、そして次回へのつながりまでを段階的に整理したもので、相手との信頼関係を持続的に築いていくための実践的な指針です。
【ステップ1】出会いの準備:信頼関係の導入
ユマニチュードのステップは、「出会いの準備」から始まります。この段階では、ケアに入る前にまず相手の存在を認識し、安心感を持ってもらうことが目的です。
たとえば、相手の視界に正面から入って、やわらかな表情で目を合わせ、「こんにちは」と落ち着いた声であいさつすると良いでしょう。仮に相手がケアを拒むような状態であっても、作業にすぐ入るのではなく、まずは人と人として出会うことが大切です。
このように、最初の接触を丁寧に行うことで、相手に受け入れてもらいやすくなり、以降のステップにおける信頼の基礎が築かれます。
【ケアを始める前に行う「出会いの準備」のポイント】
- 相手の視界に正面からゆっくり入る
- 落ち着いた声で「こんにちは」などのあいさつをする
- 柔らかい表情と目線でアイコンタクトを取る
- 相手の反応を観察しながら距離やタイミングを調整する
- 作業にすぐ入らず、「人と人」としての出会いから始める意識を持つ
【ステップ2】ケアの準備:合意形成と関係構築
次に進む「ケアの準備」では、相手との信頼関係をさらに深めるために、合意形成を重視します。このステップでは、ケアの内容や手順を前もってわかりやすく伝え、相手の理解や納得を得ることが大切です。
たとえば「これから髪を洗いますね」「大丈夫ですか?」といった声かけを通じて、本人の表情や反応を確認しながら進めます。この段階では、無理に動かそうとするのではなく、相手のペースに合わせることが求められます。
自分の意思が尊重されていると感じることで、相手はケアを前向きに受け入れやすくなります。
【ケアに入る前に信頼関係を深める準備のポイント】
- ケアの内容を具体的に伝える(例「これから髪を洗いますね」)
- 相手の同意や理解を丁寧に確認する(例「大丈夫ですか?」)
- 相手の表情やしぐさを観察し、不安や緊張があれば無理をしない
- 相手のペースに合わせ、「一緒に行う」という姿勢を持つ
- 自分の意思や感情が尊重されていると相手が感じられる関わりを大切にする
【ステップ3】知覚の連結:複数感覚の統合ケア
「知覚の連結」では、視覚・聴覚・触覚など、複数の感覚を同時に使うことでケアの効果を高めます。たとえば、相手の目を見ながらやさしく話しかけ、同時に手を握るといった行為により、「見られている」「聞かれている」「触れられている」という複数の感覚が一致し、認識が安定します。
これは特に、認知機能が低下している方に有効です。視覚だけ、聴覚だけでは理解が難しくても、感覚を連動させることで不安や混乱が軽減され、「自分に向き合ってくれている」という実感が得られます。情報が多様なルートから届くことは、状況把握や記憶の助けにもなります。
【視覚・聴覚・触覚を同時に使う「知覚の連結」のポイント】
- 相手の目を見てやさしく声をかける
- 手を握る・肩に触れるなどの落ち着いた接触を組み合わせる
- 表情・声・タッチを連動させることで、相手の認識が安定しやすくなる
- 感覚の一致が「自分に集中してもらえている」という実感につながる
- 認知症のある方にも、感覚を通じて状況理解を助ける効果がある
【ステップ4】感情の固定:ポジティブな記憶の形成
「感情の固定」は、ケアの中で生まれた良い感情を記憶として残すことを意識する段階です。ケアの直前・直後に、「ありがとう」「うれしかったです」「がんばりましたね」といった前向きな言葉を添えることで、相手はその体験を肯定的に受け止めやすくなります。
ポジティブな感情が記憶に残ることで、次回以降のケアへの安心感や期待にもつながります。とくに認知症のある方にとっては、「何をされたか」よりも「どう感じたか」が印象に残りやすいため、このステップの丁寧さがケア全体の質に影響すると言われています。
【ケア後に良い感情を定着させるためのポイント】
- 「ありがとう」「今日もがんばりましたね」など前向きな言葉で締めくくる
- 笑顔ややさしい声で安心感を残す
- 相手の努力や存在をねぎらい、肯定的に認識してもらう
- 認知症の方にも「気持ちよかった」「安心できた」などの感情が記憶に残りやすい
- 終わり方によって次回のケアに対する印象が大きく左右される
【ステップ5】再会の約束:次回ケアへの安心づけ
最終ステップである「再会の約束」は、ケアの終わりに次の関係性へつなげるための声かけを行うフェーズです。「また来ますね」「次もよろしくお願いしますね」といった言葉が、相手に安心感と見通しを与えます。
唐突に立ち去るのではなく、再会を前提とした別れ方をすることで、「もう終わりなのか」「一人にされるのか」といった不安を軽減できます。
関係性の継続性を伝えることは、ケアの一貫性を感じてもらううえでも重要だと言えるでしょう。終わり方を丁寧にすることが、次回のケアの始まり方をよりスムーズにする要因となります。
【ケアの終わりに次回へのつながりを意識するポイント】
- 「また来ますね」「次も一緒に頑張りましょう」と再会を前提に声をかける
- いきなり去らず、見送る・手を振るなどで丁寧な終わり方を意識する
- 継続的な関係性があることを伝え、不安や孤独感を和らげる
- 次のケアへの見通しを持つことで、相手の安心感を高める
- 「終わり方=次の始まり方」と考え、最後まで丁寧な関わりを心がける

ユマニチュードの効果とメリット
ここでは、ユマニチュードを導入することで得られる具体的な効果やメリットについて解説します。
ケアを受ける側・提供する側の双方にとって、身体的・精神的な安定やケアの質向上に寄与することが実践現場から報告されています。
効果1. ケアされる側の精神安定・身体維持につながる
ユマニチュードは、ケアを受ける方の精神的な安定や身体機能の維持に対して効果が期待できるケア手法です。
視線を合わせて語りかけたり、やさしく触れるといった行動を通して、「自分は尊重されている」と相手が感じることで、不安や混乱が軽減されるケースも少なくありません。
認知症の方は、環境や関わり方の影響を受けやすいため、丁寧な接し方によって安心感を得られる可能性があります。
ユマニチュードでは「立つこと」を重視しており、日常生活において立位や歩行の機会を積極的に取り入れることで、身体機能やバランスの維持を目指します。
こうした働きかけは、心身の安定とQOL(生活の質)の向上に寄与します。
効果2. ケア提供者のストレス緩和とやりがいにつながる
ユマニチュードのアプローチは、ケア提供者側の負担軽減や働きがいの向上にもつながるとされています。
たとえば、ケアを受ける方との信頼関係が構築されやすくなることで、介護中の拒否や混乱が減少し、結果的に介助の負担が軽くなるケースも少なくありません。
加えて、相手からの「ありがとう」「うれしかった」などの反応は、ケアの仕事を単なる業務ではなく、人と人との対話として実感できる瞬間でもあります。
ユマニチュードは、ケアを提供する側自身の感情や価値観も大切にし、自己のケア観を振り返るきっかけにもなります。
このような姿勢が、職場でのモチベーションや職業的アイデンティティの確立にも好影響を与えると考えられています。
ユマニチュードの行動例 | ケア提供者にとっての効果 |
---|---|
やさしい声かけ・目線を合わせたコミュニケーション | 利用者との信頼関係が築きやすくなり、 |
相手の反応や表情を観察しながらペースを調整する | 無理な介入を避けられ、心理的ストレスや |
肯定的な言葉を選び、 | 感謝や笑顔といったポジティブな反応が得られ、 |
効果3. 介護拒否や暴力的反応の軽減につながる
ユマニチュードを取り入れたケアでは、「介護を拒まれる場面」や「強い反応を示される場面」が落ち着く傾向がみられています。
たとえば、認知症のある方が急な接触に戸惑う場合でも、事前に目を見て声をかけ、「今から足を拭きますね」などと伝えることで、安心して応じてもらえるケースがあります。
認知機能に変化がある方は、突然の動作や説明のない対応に不安を感じやすいため、「ゆっくり」「丁寧に」「相手の立場に寄り添って」対応することが大切です。
ユマニチュードはこうした関わり方を体系化しており、混乱を防ぎながら、ケアを受ける人と提供する人の双方が穏やかに過ごせる関係づくりを支える手法とされています。

ユマニチュードの課題と批判的な視点
ここでは、ユマニチュードに対して指摘されることがある課題や、現場で効果を実感しにくいとされる理由について解説します。導入の判断にあたっては、肯定的な評価だけでなく、現場の実態に即した客観的な検討も重要です。
課題1. 効果を実感しにくい
ユマニチュードは、人間の尊厳に基づいたケア技法として注目されていますが、すべての状況において効果がすぐに現れるとは限りません。
たとえば、身体的苦痛が強い、あるいは精神的混乱が深い状態にある方には、丁寧な声かけや視線のやり取りが届きにくく、期待した反応が得られにくい場合もあります。
信頼関係の構築には時間が必要であるため、短期間での変化を求めると「効果が見えにくい」と感じやすくなります。
受け手の性格や生活歴、文化的背景によってケアへの反応は異なるため、画一的な適用ではなく、個別性に応じた柔軟な対応が求められます。
【効果を実感しにくいとされる主なケース】
- 身体的な苦痛や精神的混乱が強く、ケアへの反応が得られにくい場合
- 数日〜1週間など、短期間で成果を求めすぎてしまう場合
- 相互の信頼関係が構築されていない段階での導入
- ケアを受ける人の性格や生活歴とユマニチュードの手法が十分に合わない場合
- 説明や声かけが一方通行になり、相手の理解や納得を得られていない環境
課題2. 時間・人員リソースにおける導入のハードルが高い
ユマニチュードの実践には、相手に寄り添いながら丁寧に関わる時間と、それを担う人員の確保が求められる場面があります。
たとえば、1人ひとりに丁寧な声かけや視線を通じた対応を行うには、一定の時間的余裕が必要です。しかし、日常的に多忙な介護現場では、限られたスタッフで複数のケアを同時に担っていることも多く、ユマニチュードの理念に基づいた丁寧なケアの継続が難しいと感じる声もあります。
導入を継続可能にするためには、現場の状況に合わせて段階的に取り入れたり、組織内の理解を促したり、適切な研修体制の整備が大切です。
全員が一斉に実践を始めるのではなく、小さな取り組みから広げていく柔軟さも鍵となるでしょう。

ユマニチュードは効果なし?
ユマニチュードに対して「効果が見られなかった」といった意見が聞かれることもありますが、そうした見解にはいくつかの背景が考えられます。
ひとつは、短期間で成果を求めすぎる傾向です。ユマニチュードは、信頼関係の構築を重視する手法であり、即効性よりも継続的な実践を通じて効果があらわれるケースが多いとされます。
技法の表面的な模倣にとどまり、十分な理解や研修を経ずに導入された場合には、本来の哲学や価値観が反映されにくくなるのです。
これらを踏まえると、導入時にはスタッフの共通理解と段階的な実践、そして中長期的な視点での評価が重要となります。ケアの質向上を目指すには、技術とともに姿勢や考え方の共有が不可欠だと言えるでしょう。
【誤解されやすい要因】
- 短期間で明確な成果を期待しすぎてしまう
- 技法だけをなぞり、本質的な哲学や関係性の意義が十分に伝わっていない
- 現場内でケア観の共有や継続的な学びが不足している
- 評価基準が「目に見える変化」に偏っており、プロセスが軽視されている
【主な対策と重要なポイント】
- 中長期的な視点での変化を見守る姿勢が必要
- 導入者同士での振り返りや意図の再確認が不可欠
- 成功事例の共有やロールプレイを通して実感を得やすくする
- 利用者の反応だけでなく、関係性やケアの質を評価指標に含める

ユマニチュードを学ぶには?おすすめの本を紹介
ここでは、ユマニチュードを体系的に学びたい方に向けて、主な学習手段をご紹介します。書籍や研修、学会活動に加えて、厚生労働省など公的機関の取り組みにも注目しながら、知識と実践の両面から理解を深めましょう。
書籍・研修・学会などの情報源
ユマニチュードに関する学びを始めるには、まず書籍を通じた基礎知識の習得をおすすめします。
『ユマニチュードという革命』(イヴ・ジネスト/ロゼット・マレスコッティ著、誠文堂新光社)は、ユマニチュードの理念や技法を初心者向けに平易に解説しており、入門書として適しています。
出典:「ユマニチュード」という革命: なぜ、このケアで認知症高齢者と心が通うのか(誠文堂新光社)|一般社団法人ユマニチュード学会
一般社団法人日本ユマニチュード学会および IGM‑Japon合同会社(研修運営組織)が連携し、認定インストラクターによる座学と実技を組み合わせた研修プログラムを実施しています。
出典:ユマニチュードを知る・学ぶには|【公式】日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ
日本ユマニチュード学会では、最新の研究成果や臨床報告が共有されており、理論と実践の双方からの理解を深める場となっています。
書籍・研修・学会の三つの学習手段を段階的に取り入れることが、実践力の定着に役立つでしょう。

厚生労働省や介護福祉士試験におけるユマニチュードの取り扱い
「ユマニチュード」という用語は、2025年7月時点では厚生労働省の公式施策や認知症ケアの法令・ガイドライン文書には明記されていません。
しかしながら、介護福祉士国家試験(令和5年度/第35回)筆記試験の「認知症の理解」において、ユマニチュードの4つの柱に関する問題が出題されています。このように出題実績が確認されており、試験範囲の一部として解説される可能性があります。
そのため、ユマニチュードは制度上の必須知識とはされていないものの、プライベートな学びや試験対策として理解しておく意義があるといえるでしょう。
なお、最新の公的制度や国家試験出題内容については、厚生労働省および社会福祉振興・試験センターの公式サイトなどで随時確認してください。

ユマニチュードの実践現場と導入事例
ここでは、ユマニチュードがどのような現場で実践されているのかについて解説します。
病院や介護施設、在宅ケアなど、さまざまな場面における導入の工夫や成果、課題への対応、成功に向けた取り組みを具体的に紹介します。
病院・介護施設での導入例と成果
ユマニチュードは、病院や高齢者介護施設などで導入されるケースが増えており、現場での変化がいくつか報告されています。
認知症の方への対応において、丁寧な声かけや穏やかな視線、やさしい触れ方を取り入れることで「拒否的な反応や不安行動の頻度が減少した」とされる例があります。
スタッフ同士で基本的な技法を共有し、ケアの一貫性が高まったことで「職種間の連携が円滑になった」といった効果もあるようです。こうした取り組みは、単なる介助技術の導入にとどまらず、組織全体で「ケアのあり方」を見直す機会にもなっています。
在宅ケアでの導入例と成果
在宅介護においても、ユマニチュードの考え方は家族介護者にとって参考になる部分が多くあります。
たとえば、介護を受ける本人に対して「目を合わせて話しかける」「落ち着いた口調で行動を伝える」「やさしく手を添える」といった方法を意識することで、相手の安心感が得られやすくなり、介護する側の負担も軽減される傾向があるといわれています。
ただし、在宅では介護者が一人で担う場面も多く、専門職のような研修やサポートを受けにくいという課題もあります。
導入の際には、地域包括支援センターなどを通じた相談体制や、動画教材・自治体主催の勉強会などを活用することが、継続的な実践につながるでしょう。
【活用上のメリット】
- 家族との関係性が改善される場合がある
- 表情やタッチによる安心感を伝えやすい
- ケア前後の本人の感情に変化が見られることがある
【主な課題】
- 継続的な実践には介護者自身の学びや支援が必要
- 一人介護では心理的な負担が蓄積しやすい
- 専門職からの助言やフィードバックを得にくい環境が多い
導入に成功した組織の取り組みとポイント
ユマニチュードの導入に積極的に取り組み、一定の成果を挙げている組織には、いくつかの共通点が見られます。
まず、現場スタッフの理解と共感を重視し、研修や実践を通じて理念を浸透させるプロセスが丁寧に行われています。
導入初期から継続的に職員研修を実施し、定期的な振り返りや成功体験の共有を取り入れることで、現場内で自発的な改善が生まれやすくなるでしょう。
マニュアルとして画一的に運用するのではなく、各施設の状況に応じた柔軟な工夫が尊重されていることも重要です。
このような取り組みによって、ユマニチュードが単なる技法ではなく、「ケアの文化」として定着していく土台が築かれています。

認知症分野におけるAI×ユマニチュードの最新活用事例
フランス発祥のケア技法「ユマニチュード」の習得支援にもAIが活用されています。
あるプロジェクトでは、AIでの動画解析によって介護職のケアスキルを可視化し、技術向上を目指すコーチングを取り入れています。
今後は介護職員のみならず、「家族支援AI」や「本人支援AI」へと展開し、共生に向けた「マルチモーダル自立共生支援コーパス」の構築が進められているようです。

まとめ
ユマニチュードは、「人間らしさ」や「尊厳」を重視するフランス発祥のケア技法で、医療・介護の現場において広く注目されています。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を中心に、相手への敬意と共感を伝える対話的なケアを実践できることが大きな特徴です。
とくに認知症のある方へのケアにおいては、不安や混乱の軽減、精神的な安定の維持といった効果が期待されており、ケア提供者にとってもやりがいやストレス軽減につながるという報告があります。
ぜひこの機会にユマニチュードについて正しく理解し、現場での実践や学習に活かしましょう。
よくある質問
Q.ユマニチュードは認知症以外のケアにも使えますか?
ユマニチュードは認知症に限らず、すべての対人ケアに応用可能です。ユマニチュードは「人間らしさを尊重する」哲学に基づいており、障がいや終末期、精神疾患、小児医療など幅広い分野でも活用されています。
Q.ユマニチュードを実践するのに資格は必要ですか?
ユマニチュードの実践に資格は不要ですが、研修の受講が推奨されています。
誰でも実践できますが、体系的に学ぶことで理解が深まり、現場での効果的な活用がしやすくなります。
Q.ユマニチュード研修はどこで受けられますか?
ユマニチュード研修は、IGM-Japonなどの民間研修機関で受講可能です。
日本では「IGM-Japon(https://humanitude.care/)」が研修を提供しており、医療・福祉関係者向けのプログラムが全国で実施されています。
Q.ユマニチュードは短時間勤務や小規模施設でも導入できますか?
ユマニチュードは短時間でも一部技法から取り入れられます。「目を見る」「声をかける」など基本技法は1回数分から実践できるため、限られた時間・人員でも導入が可能です。
Q.ユマニチュードの導入効果はどれくらいで実感できますか?
個人差がありますが、ユマニチュードの導入における効果は、早い例だと数日で変化が見られることもあります。
特に信頼関係が築かれやすい場面では、拒否反応の緩和や表情の変化などが短期間で現れることがあります。ただし、長期的な視点での継続が重要です。
Q.ユマニチュードの4つの基本は何ですか?
ユマニチュードの基本は「見る・話す・触れる・立つ」の4つです。
これは信頼関係を築くうえでの基本技法であり、すべてのケアに共通する身体的コミュニケーションの柱とされています。
Q.ユマニチュードとはどういう意味ですか?
ユマニチュードは「人間らしさ」「人間性」を意味するフランス語に由来します。
ケアを受ける人を「人」として尊重することを基本理念とする哲学的なアプローチです。
Q.なぜ「立つ」ことがユマニチュードで重視されるのですか?
自立性と尊厳の維持につながるためです。「立つ」行為は、身体機能の維持だけでなく、自分の意思で生活する感覚や「生きる力」を支える重要な要素と位置づけられています。
Q.ユマニチュードの5原則とは何ですか?
出会いの準備・ケアの準備・知覚の連結・感情の固定・再会の約束の5ステップです。
これはケアの始まりから終わりまで、信頼関係を築くための流れを段階的に整理したものです。

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
