制度

成年後見制度とは?仕組み・種類・手続き・費用まで徹底解説【2025年最新版】

成年後見のブロック人形のミニチュア家

成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した方の権利と財産を守るための重要な制度です。

高齢化が進む現代において、2025年には認知症患者が470万人に達すると推計される中、この制度への理解と適切な利用がますます重要になっています。しかし、制度の複雑さや手続きの煩雑さから、利用を躊躇される方も少なくありません。

本記事では、成年後見制度の基本的な仕組みから手続きの流れ、費用、メリット・デメリットまで、利用検討に必要な情報を専門的かつ分かりやすく解説します。法定後見と任意後見の違い、家族信託との比較、制度見直しの動向についても詳しくご紹介し、あなたの状況に最適な選択ができるよう支援します。

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    認知症の家族がいる方
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    将来の判断能力低下に備えたい方
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    後見制度の利用を検討している家族・親族
成年後見って文字の隣にある高齢者人形
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成年後見制度とは

成年後見制度の概要

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分となった方が、適切な日常生活を継続できるように支援するための公的な制度です。

この制度では、成年被後見人の財産管理や福祉サービスの契約、医療費の支払いなど、重要な法律行為や生活上の判断を、家庭裁判所が選任した成年後見人が代理または補助することで、成年被後見人の権利と利益を守ります。成年後見人は、成年被後見人の生活状況や身体状況を考慮しながら、成年被後見人の意思を尊重して支援を行うことが求められています。

成年後見制度の目的

成年後見制度の主な目的は、判断能力が低下した方が不利益を被らないように法的に保護し、成年被後見人の権利擁護と自立支援を実現することです。

たとえば、悪徳業者による詐欺や不適切な契約、財産の不正利用などのリスクから成年被後見人を守るとともに、成年被後見人が地域社会の一員として通常の生活を送れるように支援します。

また、制度の理念として「成年被後見人保護」と「成年被後見人の意思や自己決定権の尊重」、そして「ノーマライゼーション(障害のある方も家庭や地域で通常の生活を送れる社会の実現)」が掲げられており、成年被後見人の意向をできる限り反映させる仕組みとなっています。

出典:厚生労働省「成年後見制度の現状」

制度が必要とされる背景(高齢化・認知症増加)

高齢化の進展

日本は世界でも有数の高齢化社会を迎えており、65歳以上の高齢者人口は全人口の29.3%に達しています。

認知症患者の急増  

特に認知症の有病率は年々上昇しており、2025年には65歳以上の約5人に1人、人数にして472万人が認知症になると推計されています。

権利侵害リスクの拡大

判断能力が低下した高齢者が増えることで、悪質な業者による詐欺や不要な契約、財産の不正利用、さらには家族による遺産の使い込みといったトラブルが社会問題化しています。

出典:厚生労働省老健局「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(平成27年1月)

成年後見制度のハンコと申し立て書類
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成年後見制度の種類

法定後見制度とは

法定後見制度は、成年被後見人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てて利用する制度で、成年被後見人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に分かれています。

後見

「後見」類型は、判断能力がほとんど失われてしまった人が対象です。家庭裁判所が選任した成年後見人が、成年被後見人の財産管理や契約行為など、生活全般にわたって広範囲に代理・取消しを行い、法的に強く保護します。

成年被後見人が自ら行った法律行為(契約など)は、日常生活に関するものを除き、原則として後から取り消すことができます。一方で、成年被後見人の行為能力は大きく制限されるという特徴があります。

出典:e-Gov法令検索 「民法第7条」

保佐

「保佐」類型は、判断能力が著しく不十分な人が対象です。日常的な買い物などは自分でできても、不動産取引や借金など重要な法律行為は一人で行うのが難しい場合、保佐人が同意権や取消権を持って成年被後見人を支援します。

必要に応じて、家庭裁判所の判断で代理権も付与されることがあります。被保佐人が保佐人の同意なく重要な契約をした場合、その契約を後から取り消すことができます。

出典:e-Gov法令検索 「民法第11条」

補助

「補助」類型は、判断能力がある程度不十分な人が対象です。日常生活には大きな支障がないものの、一部の法律行為について他者の援助が必要な場合に、補助人が必要な範囲で代理権や同意権を個別に付与し支援します。補助人の権限は、家庭裁判所が成年被後見人の状況に応じてオーダーメイドで決定します。

このように、法定後見制度は成年被後見人の判断能力の低下度合いに応じて、最も重い「後見」から中間の「保佐」、最も軽い「補助」まで、きめ細やかに支援内容や権限が設定されている点が特徴です。いずれの類型も、家庭裁判所が選任した支援者が成年被後見人の利益を守るために活動し、成年被後見人の権利保護と適切な生活の継続を目指しています。

出典:e-Gov法令検索 「民法第15条」

任意後見制度って書いてある細い紙
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任意後見制度とは

任意後見制度は、成年被後見人の判断能力が十分にあるうちに、将来の判断能力低下に備えて「任意後見契約」を結ぶ仕組みです。

この契約は必ず公正証書で作成し、誰を任意後見人とするか、どのような支援内容を任せるかを成年被後見人自身が自由に決めることができます。

契約の内容には、財産管理(預金や不動産の管理・売却など)や身上保護(医療や介護サービスの契約、施設入所の手続きなど)に関する具体的な事項を盛り込むことができ、成年被後見人の希望や生活状況に合わせて柔軟に設定できます。

任意後見契約を結んだだけでは効力は発生せず、成年被後見人の判断能力が実際に低下したときに、家庭裁判所へ「任意後見監督人」の選任を申し立てます。

家庭裁判所が監督人を選任した時点で、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が契約内容に基づいて成年被後見人の代理や支援を行います。

任意後見監督人は、任意後見人の業務を監督し、成年被後見人の利益が守られるようにチェックする役割を担います。

この制度の最大の特徴は、成年被後見人が信頼できる人を自由に任意後見人として選び、支援内容も細かく指定できる点です。

法定後見制度のように家庭裁判所が後見人を選任するのとは異なり、成年被後見人の意思や希望がより反映されやすい仕組みとなっています。

また、任意後見契約の締結や監督人の選任、報酬の取り決めなどには一定の手続きや費用が必要であり、将来の備えのために早めの準備と専門家への相談が推奨されます。

任意後見契約の特徴

  • 成年被後見人の意思で後見人を選べる
  • 支援内容や範囲を自由に設定可能
  • 公正証書による契約が必須


出典:厚生労働省老健局「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」

任意後見制度の紙と他の制度が書いてある紙が散らかってる
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成年後見制度の利用方法と手続き

1. 申し立てができる人

成年後見制度の申し立ては、誰でもできるわけではなく、法律で定められた一定の関係者のみが行うことができます。具体的には以下の通りです。

  • 成年被後見人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族(成年被後見人から見て曾祖父母・いとこ・甥姪の子・玄孫まで。例:子、孫、ひ孫、両親、祖父母、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪、いとこ など)
  • 成年後見人、任意後見人、成年後見監督人等
  • 市区町村長
  • 検察官

身寄りがない場合や親族が申し立てできない場合は、市区町村長が申立てを行うケースもあります。

出典:e-Gov法令検索 「民法第7条」
出典:e-Gov法令検索 老人福祉法 第32条

2. 必要書類

申し立てには、家庭裁判所に提出するためのさまざまな書類が必要です。主な必要書類は次の通りです。

  • 申立書(家庭裁判所所定の様式)
  • 成年被後見人の戸籍謄本、住民票
  • 申立人の戸籍謄本
  • 成年被後見人の診断書(成年後見制度用の様式)
  • 財産目録(預貯金、不動産、年金などの内容を記載)
  • 収支予定表
  • 親族関係図
  • 成年被後見人の健康保険証の写し
  • その他、家庭裁判所が必要と判断した書類

申立て内容や家庭裁判所によって、追加の書類提出を求められることもあります。

出典:厚生労働省老健局「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」必要書類

3. 手続きの流れ(申し立てから後見人選定まで)

  1. 書類の準備・提出
     必要書類を揃え、成年被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
  1. 家庭裁判所による調査・面接
     家庭裁判所の調査官が、成年被後見人や申立人、親族への面接や意向確認を行い、必要に応じて医師による鑑定(5万~10万円程度の費用)を実施します。
  2. 審理・審判
     提出書類や調査結果をもとに、家庭裁判所が後見等の開始が必要かどうかを判断し、適切な後見人等を選任します。申立書に候補者を記載しても、必ずしもその人が選任されるとは限りません。

  3. 後見登記・開始
     審判が確定すると、法務局で後見登記がなされ、成年後見人の職務が正式に開始します。

この手続き全体には、通常2~3か月程度かかります。最高裁判所の統計によると、約72%の事件が2か月以内に終局していますが、事案によってはさらに時間を要する場合もあります。

家庭裁判所は成年被後見人の状況を総合的に判断し、最適な後見人等を選任します。不服があれば2週間以内に申立てが可能です。


出典:成年後見関係事件の概況

三世代の家族が笑ってる
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成年後見人の役割と責任

成年後見人の最も重要な役割は、成年被後見人の財産管理と身上保護です。

財産管理

成年後見人は、成年被後見人の財産を包括的に管理する権限と責任を持っています。後見人に選任されると、まず成年被後見人の預貯金、不動産、有価証券、年金などの財産を調査し、1か月以内に財産目録や収支予定表を家庭裁判所へ提出します。

その後も、成年被後見人の生活や療養、財産管理に必要な費用を計算し、管理計画を立てて実行します。

後見人は成年被後見人に代わって財産に関する法律行為(預金の管理、不動産の処分、契約の締結・解約など)を行うことができ、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て重要な財産処分も行います。

成年被後見人の財産と後見人自身の財産を厳格に区別し、混同や不正利用を防ぐことが求められます。


出典:成年後見人のためのQ&A

身上保護

身上保護(身上監護(しんじょうかんご)とも呼ばれます)とは、成年被後見人の医療、介護、住居確保等の生活全般を支援する業務で、成年被後見人の生活や福祉、健康、住環境などを守り、生活の質を確保するための支援です。

後見人は、医療や介護サービスの契約、施設入所や退所の手続き、住居の確保や賃貸契約の締結・解除など、成年被後見人の生活全般に関わる法律行為を代理で行います。

ただし、後見人には成年被後見人の居所を指定する権限や、医療行為そのものの同意権はありません。

また、身元保証人になる義務もありません。後見人は成年被後見人の意思や生活状況を尊重し、成年被後見人の尊厳を守ることを重視して支援します。

後見人の義務・報告・監督体制

成年後見人は、善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ:善良な管理者として注意深く職務を行う法的義務)をもって職務を遂行しなければなりません。

就任後は財産目録や収支予定表を家庭裁判所に提出し、その後も定期的に財産状況や支援内容について報告する義務があります。

家庭裁判所は後見人の業務を監督し、不適切な財産管理や成年被後見人の利益に反する行為があれば、後見人を解任したり損害賠償請求を行ったりすることができます。

また、後見制度支援信託などの仕組みを活用し、不正や横領のリスクを防ぐための監督体制が整えられています。

後見人は成年被後見人の権利と利益を最優先に考え、誠実かつ適切に職務を果たすことが求められます。

財産目録、通帳、お札などが置いてある
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成年後見制度の費用と注意点

申立てにかかる費用の目安

  • 申立手数料(収入印紙):800円
  • 登記手数料:2,600円  
  • 連絡用郵便切手代:各家庭裁判所により異なる
  • 診断書作成費用:5,000円~10,000円程度
  • 鑑定費用:5万円~10万円程度(必要な場合のみ)

出典:厚生労働省成年後見制度利用促進室「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」
出典:厚生労働省成年後見制度利用促進室「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」

後見人の報酬や実費とは

家庭裁判所の決定により、後見人には報酬が支払われる場合があります。

報酬額は管理財産額により異なり、1,000万円以下で月額2万円、1,000万円~5,000万円で月額3万円~4万円、5,000万円超で月額5万円~6万円が目安となります。

出典:成年後見人等の報酬額のめやす

費用の負担者は?

原則として成年被後見人の財産から支払われます。成年被後見人に資力がない場合は、成年後見制度利用支援事業により市区町村が費用を助成する制度があります。

出典:成年後見制度利用支援事業実施要綱|厚生労働省

メリットとデメリットがクリップボードに書いてある、横にペンと黒い丸い眼鏡
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制度利用のメリット・デメリット

メリット

  • 成年被後見人の権利と財産を法的に守れる

成年後見制度を利用することで、判断能力が低下した成年被後見人に代わり、成年後見人が財産管理や契約行為を行います。

これにより、成年被後見人が自分で財産を管理できなくなった場合でも、預貯金や不動産などの資産が適切に守られ、不利益な契約や財産の損失を防ぐことができます。

  • 悪質な契約や詐欺被害の防止

成年後見人は、成年被後見人が誤って不利な契約を結んだ場合、その契約を取り消すことができます。

また、親族による財産の使い込みや、第三者による詐欺被害などから成年被後見人を守る役割も担っています。家庭裁判所の監督下で後見人が職務を行うため、不正が発生しにくい仕組みです。

  • 成年被後見人の代わりに必要な契約や手続きができる

介護サービスの利用契約や医療手続き、施設入所の契約など、成年被後見人が自分でできない法律行為を後見人が代理で行えるため、生活上の不便やトラブルを回避できます。

デメリット

  • 費用や手続きの負担

成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てや必要書類の準備など、手続きに手間と時間がかかります。また、後見人が親族であっても報酬が発生する場合があり、専門職後見人の場合は月額2万円以上の報酬が必要になることもあります

  • 財産の自由な活用が制限される

成年後見制度は成年被後見人の財産保護が目的のため、日常的な支出以外の大きな財産の移動や贈与、資産運用などは原則として認められません。たとえば、孫へのお小遣いや家のリフォームなど、成年被後見人や家族の希望であっても自由にお金を使えないケースがあります。

  • 後見人の選任や運用に制約がある場合も

後見人の人選は家庭裁判所が決定するため、希望どおりの親族が選任されない場合や、専門家が選任されて第三者が財産管理に介入することもあります。また、後見人の交代や制度の途中終了は原則としてできず、柔軟な運用が難しい点もデメリットです。

  • 制度の終了が困難

一度成年後見制度が開始されると、成年被後見人の判断能力が回復しない限り、制度を途中でやめることはできません。長期間にわたり制度の利用や報酬の支払いが続くこともあります。

このように、成年後見制度は成年被後見人の権利保護や財産管理に大きなメリットがある一方で、費用や手続き、運用面での制約や負担もあるため、利用前に十分な検討が必要です。

出典: 法務省「成年後見制度の見直しに向けた検討」

法務局の建物
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成年後見制度の現状と課題

利用者数・利用率の現状

成年後見制度の利用者数は年々増加しており、令和4年(2022年)末に245,087人、令和5年(2023年)末に249,484人、令和6年(2024年)末に253,941人となっています。しかしながら、認知症高齢者数は同時期に増加が続いており、令和4年には約443万人、令和7年(2025年)には約472万人に達すると推計されているため、制度の利用拡大は認知症患者数の増加ペースに追いついていない状況です。

出典:厚生労働省「成年後見制度の現状」

制度の課題と今後の見直し動向

成年後見制度の主な課題は、以下の点に集約されます。

  • 成年被後見人の意思の尊重と柔軟な運用の不足
    現行制度では、一度後見が開始されると「終わりのない後見」となりやすく、成年被後見人の判断能力や生活状況が変化しても柔軟な見直しや後見人の交代が難しい状況です。
  • 専門職後見人の人材不足
    弁護士や司法書士など専門職後見人の担い手が不足しており、地域によっては後見人の確保が難しいケースもあります。

  • 費用負担の重さ
    申立てや後見人報酬など、経済的な負担が利用の障壁となっています。
  • 不正防止や監督体制の強化
    後見人による不正利用が後を絶たず、信託の活用や家庭裁判所の監督強化などが求められています。

こうした課題を受けて、現在は「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(2022年~2026年)に基づき、制度の見直しが進められています。今後は「必要な時に、必要な範囲でのみ利用できる制度」「一定期間ごとの見直し」「柔軟な後見人交代」など、より成年被後見人の意思や生活実態に即した運用への改革が検討されています。

法制審議会において2026年の民法改正案提出に向けた検討が進められており、2030年までには大きな制度改正が行われる見通しです。今後は、より利用しやすく、成年被後見人の権利擁護と自立支援を両立できる制度への進化が期待されています。

家族信託の文字が書いてある木のブロック
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家族信託との違い

成年後見制度と家族信託は、いずれも判断能力が低下した場合の財産管理をサポートする制度ですが、目的や運用の仕組み、柔軟性などに大きな違いがあります。主な相違点を詳しくまとめます。

1. 制度の目的と重視するもの

  • 成年後見制度
     成年被後見人の判断能力が低下した後、成年被後見人の権利や財産を法的に守ることを最優先とします。家庭裁判所が後見人を選任し、成年被後見人の利益保護を重視した管理が行われます。成年被後見人や家族の希望よりも、成年被後見人に不利益が生じないかどうかが優先されます。

  • 家族信託
     成年被後見人が元気なうちに、将来の財産管理や承継について、家族など信頼できる人(受託者)に財産の管理・運用・処分を託す制度です。契約内容や受託者を自由に決めることができ、成年被後見人や家族の希望やニーズに合わせて柔軟に設計できます。

2. 登場人物と管理の主体

制度

主な登場人物

管理の主体

成年後見制度

成年被後見人、成年後見人、家庭裁判所

成年後見人(裁判所監督)

家族信託

委託者(財産の持ち主)、受託者、受益者

受託者(家族等)

家族信託は委託者・受託者・受益者の三者で構成され、契約内容も柔軟です。成年後見制度は成年被後見人と成年後見人が中心で、裁判所の関与が強い点が特徴です。

3. 開始時期と終了時期

  • 成年後見制度
     成年被後見人の判断能力が低下した「後」に家庭裁判所の審判で開始。原則として成年被後見人が亡くなるまで継続します。
  • 家族信託
     成年被後見人の判断能力が十分な「元気なうち」に契約を締結し、契約で定めた期間や目的が達成されるまで続きます。世代をまたぐ財産管理も可能です。

4. 財産管理の自由度・柔軟性

  • 成年後見制度
     財産管理や支出は「成年被後見人の利益」に限定され、裁判所の監督下で厳格に運用されます。たとえば家族の希望による贈与や資産運用は原則認められません。
  • 家族信託
     契約で定めた範囲内で、受託者が柔軟に財産管理・運用・処分を行えます。相続税対策や資産承継など、成年被後見人や家族の希望に沿った財産活用も可能です。

5. 身上保護の有無

  • 成年後見制度
     財産管理だけでなく、医療・介護サービスの契約や施設入所手続きなど、成年被後見人の生活全般をフォローする「身上監護」も後見人の役割に含まれます。
  • 家族信託
     あくまで財産管理・運用・処分が中心であり、身上保護は制度の対象外です。

6. 報酬と費用

  • 成年後見制度
     後見人が専門職の場合、裁判所が報酬額を決定し、被後見人の財産から支払われます。報酬の負担が継続的に発生します。
  • 家族信託
     家族が受託者の場合、基本的に報酬は不要。専門家に依頼した場合でも、契約内容に応じて柔軟に設定できます。

成年後見制度と家族信託の表の比較

比較項目

成年後見制度

家族信託

開始時期

判断能力低下後

判断能力があるうち

管理の主体

裁判所選任の後見人(監督あり)

成年被後見人が選ぶ受託者(家族等)

財産管理の自由度

低い(成年被後見人の利益最優先)

高い(希望に応じて柔軟)

身上保護

あり

なし(財産管理のみ)

報酬・費用

裁判所決定、継続的な負担あり

柔軟に設定、家族なら不要も多い

どちらが適しているかは、成年被後見人や家族の希望、財産の状況、将来の見通しによって異なります。両制度の特徴を理解し、必要に応じて専門家に相談しながら選択することが重要です。

まとめって文字がある木のブロック
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まとめ

成年後見制度は、判断能力が低下した方の生活と権利を守るための重要な制度です。法定後見と任意後見、それぞれの特徴や手続きを理解し、早めの準備や専門家への相談をおすすめします。家族信託などの補完制度も含め、成年被後見人の意思や家族の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。

成年後見制度に関するよくある質問

よくある質問

Q.申立てから利用開始までどれくらいかかりますか?
A.

成年後見制度の申立てから法定後見の開始までは、通常2~3か月程度かかります。最高裁判所の統計によると、約72%の事件が2か月以内に終局していますが、案件によっては3~6か月ほどかかる場合もあります。成年被後見人を保護する緊急の必要性がある場合は、裁判所が迅速に手続きを行うこともあります。

出典:成年後見関係事件の概況

Q.親族以外でも後見人になれますか?
A.

はい、親族以外でも成年後見人になることが可能です。弁護士や司法書士などの専門職、市民後見人なども選任されるケースがあります。後見人の選任は家庭裁判所が最終的に判断しますが、候補者として親族や第三者を推薦することもできます。

Q.後見人の変更や解任はできますか?
A.

可能です。後見人が辞任を希望する場合や、病気・高齢・不適切な事務・不正行為などがあった場合は、家庭裁判所の許可や判断により後見人の変更や解任が行われます。後見人の交代が必要な場合、家庭裁判所が新たな後見人を選任します。

Q.費用は誰が負担しますか?
A.

成年後見制度の申立て費用や後見人報酬、専門家への依頼料などは、原則として成年被後見人の財産から支払われます。成年被後見人の財産が少ない場合は、家庭裁判所に費用の減免を申請できる場合もあります。

Q.任意後見と法定後見の併用は可能ですか?
A.

原則として、任意後見契約発効中に法定後見を重複して行うことはできません。

豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
監修者

海野 和看護師

この記事の監修者情報です

2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。

【保有資格】

日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み

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